窓から見える街路樹の緑豊かな景色を眺めながら、窓辺で本を読んだり仕事をしたりする。H様ご夫妻が暮らすのは、千葉市内の駅そばにある築20年超の大規模マンション。以前から所有し、知人に賃貸していた持ち家をtotonoiの姉妹事業「EcoDeco」に依頼してフルリノベーションしました。
「この家は私が独身時代に購入して結婚後も3年間一緒に住んでいました。ただ、当時の妻は激務で、ここから都心に通勤するのは大変だったので、2014年に日本橋の賃貸マンションに引っ越したんです。私は職場がこのマンションから徒歩圏内なので、都心から通っても通勤ラッシュとは反対方向で、さほど負担ではありませんでした」(ご主人)
「日本橋には7年住んでいました。ここよりもずっとコンパクトでしたが、築浅で利便性も高くて、それはそれでよかったですよ。ところが、コロナ禍以降、世の中が変化して深夜まで働くようなワークスタイルではなくなったことや、私自身もサラリーマンからフリーランスになったこともあり、東京の中心にいる必要性が薄くなってきたんです。それで『それなら、あのマンションに戻ろうか』という話が出てきました」(奥様)
知人との賃貸契約期限となる2023年3月末からリノベーションをするつもりで、知人に「そろそろ帰ろうと考えている」と伝えたところ、すぐに同じマンション内に引越し先が見つかり、想定よりも早く空室になることに。「早いに越したことはない」と2022年の夏からリノベーションプロジェクトがスタートしました。
ご夫妻のリノベパートナー探しは、資料の一括請求からスタート。ところが、取り寄せた数十社のパンフレットを見比べても惹かれる会社が見つからず、インターネット検索で見つけた個人の設計士さん、大手のハウスメーカーさん、EcoDecoの3社にコンタクト。「個人の設計士さんはその方の作家性が私たちの望むテイストとは少し違った」ことから、2社に絞ってプランの依頼をされました。
「EcoDecoさんは事例を見ると都内の物件が多かったので、千葉でも手がけてもらえるかをメールで問い合わせたら、すぐに岡野さんから『大丈夫です!』と返事をいただきました。私も夫もせっかちなところがあるので、その時点で好印象でした。EcoDecoさんと大手のハウスメーカーさんに自作のムードボードをお渡しして、同じ条件でプランの提案をお願いしました。
ムードボードに込めた私たちの希望をいかに細やかに実現してくださるか、という観点でプランを拝見しました。間取りもほとんど変えませんし、思ってもみないアイデアや提案はあまり求めていませんでした。岡野さんのプランは、プロでないとわからない問題を考慮した提案がたくさんあったんです。たとえば『廊下とトイレの扉が干渉してしまうので、廊下の扉は引き戸にしましょう』といったことを明確にわかりやすく説明してくださったり。キャッチボールがスムーズで、主人も私も全面的に信頼して進めることができました」(奥様)
「ハウスメーカーさんも説明はしてくださるのですが、どうしても大勢のチームで動くプロジェクトになるので、一つ一つに時間がかかってしまうんですよね。その点、岡野さんはその場でスケッチを描いて説明してくださるので、スピードも全然違いました。施主支給品も『ここが安いですよ』とURLを送っていただいたので、探し回らずに済みました」(ご主人)
こうして始まったEcoDecoとのリノベーションプロジェクト。同じ家に以前住んでいた経験から、改善したいことと理想の暮らしのイメージが明確だったため、間取りを変えたのはリビングと和室を繋げただけですが、LDKの両脇に壁一面の本棚を設けたことで暮らし方は大きく変化しました。
「動線には不満がなかったので大きく間取りを変えたいということはありませんでしたが、和室だった場所が暗くて、デッドスペースになっていたので、リビングにしてしまおうと。和室の押し入れの代わりとしてリビングの入り口側に収納を設けました。元々は奥行きの浅い収納でしたが、布団も収納できる深めの奥行きにしました」(ご主人)
「もともと本棚が好きで、Pinterestなどに集めていました。言葉だけではうまく伝わるかどうかわからなかったので、初回の岡野さんとの打ち合わせ時にそれらの写真も使った自作のムードボードをお渡ししました。『この本棚の上部はいいけど、下段はNG』『グリッドはこんな感じで揃えたい』『色や素材は持っている家具に合わせてこんな感じがいい』など写真にコメントを添えて。そうしたら、今とほとんど変わらないプランが上がってきたので、さすがでしたね。
「テレビを置いてある本棚は、テレビの位置、ソファやダイニングの高さのバランスを考慮して、少し高さを下げた5段に、ダイニング側の本棚は背の高い本を入れられるように4段にしています」(奥様)
「ダイニング側はアート、児童書、絵本、インテリア、旅関連の本が多く、テレビボード側はどちらかというと仕事にまつわる本を収納しています。下段は埃がたまりやすいので扉をつけてもらい、雑誌類はそこに収納しています。以前は本棚に収まりきらず、どんどん積み上げていて必要な時にすぐには見つからないという状態だったのですが、この本棚になって実用性も格段に高くなりました」(奥様)
本の背表紙はカラフルなため、本棚は鮮やかな印象になりがちですが、奥様はひとつひとつにグラシン紙をカバーリングし、落ち着いた柔らかなトーンに統一させています。これはナイスアイデア。
「日焼けや埃、ニオイから守ることが本来の役割なのですが、色のトーンを和らげたいというのもありました。リビングにこれだけの本を置くといろいろな色や書体が目に飛び込んできてうるさくなってしまうところを、少しグレイッシュなトーンに落ち着かせることができました」(奥様)
ムードボードを制作されたり、グラシン紙を巻いたりと、奥様が持つ暮らしへの熱量を感じます。住まいづくりは夫婦分担制で、奥様がデザイン担当、理系のご主人が機械や電気系統の担当だったそう。
本棚と一体化している窓辺のデスクは、奥様のワークスペース。椅子はオフィスチェアにはせず、インテリアに馴染む背もたれの低い回転式の木製椅子に。ikususu(イクスス)という岐阜の家具ブランドのものだそう。
「天板を本棚の棚板の高さと揃えているので一体感があって気に入っています。机には引き出しではなくトレーを入れていて、使い勝手がいいんですよ。たとえば進行中の業務に関するトレーは手前にしておけますし、気軽に入れ替えができます」(奥様)
キッチンは既存と位置は変えずに設備を一新。セミクローズ型にしていた壁や上吊り棚を取り払い、すっきりとした印象に。キッチン本体とシステム収納は全てPanasonicのグレーのシステムキッチンで統一。床材はメンテナンス性の高いPタイルにしました。「あると便利だから入れたい」と思ってしまいがちな食洗機を入れなかったのは、ライフスタイルが確立している大人のリノベならでは。
「キッチンは初めからシンプルなシステムキッチンを希望していて、木目がいいか、グレイトーンがいいかとか、デザインイメージはいくつかありましたが、造作キッチンというのはほとんど考えていませんでした。『手持ちのキッチン家電の収納』も設計段階でプロットしていただいています」(奥様)
寝室の壁紙は「寝室は落ち着いた色を」と、暖色系のグレージュ、床はループ状のカーペットタイルで温かみがあるホテルのような空間になっています。
「床をカーペットにしたのは減額のためでしたが、寝室の床ってほとんどベッドで見えませんし、朝起きた時に足元が冷やっとせず柔らかいので、結果的にはカーペットにしてよかったです。高齢になった時に万が一ベッドから転げ落ちてしまっても安心ですしね」(奥様)
北側に面している寝室とご主人の趣味部屋は、結露に悩まされた経験から、環境を整えるためにインナーサッシを取り付けました。効果は絶大で、足元をカーペットにしたことも相まって、冬場もほとんど暖房を使わなかったほど。防音対策にもなりまさに一石二鳥。
日当たりのいいリビング側は元々暖かく、新築時からあった床暖房をほとんど使ったことがなかったため、リノベーション時に配線を切断しました。
「今となっては、電気代が高くなりましたからなおさら使わなかったでしょうね」(奥様)
現在の住まいに戻ってきてからは、ご主人は徒歩通勤になり、奥様は在宅ワークを基本として週に数回都内の仕事場に出かけるような生活になったそう。
「引っ越して半年経ちましたが、新しい生活はとても快適です。私は基本的に家で仕事をしていて外出することもありますが、帰宅すると家にいたいという気持ちが強くなりました。天気の良い日はリビングに素晴らしい光が差し込み、心地よい気分になります。夜の過ごし方も変わって、本を読む時間ができて早く寝るようになりましたし、夫は趣味の部屋でギターを弾いたり音楽を聴いたりしています」(奥様)
「やりたいことは趣味部屋にすべて揃っているので毎晩ここで過ごしています。ギターをクローゼットに収納できるよう天井の高さを出してもらいました。音楽が好きで、友人とライブをすることもあるんです。デスクもパソコンもありますが、あくまで趣味用です。家で仕事はしません」(ご主人)
「私は仕事の都合で早朝から都内に出る日もあるので、引っ越す前は『余裕があれば都内に事務所が欲しいな』とも思っていましたが、その考えもなくなりました。そういう日はホテルに前泊すれば気楽ですし。都心のマンションは便利でしたし、それはそれで気に入っていたんですけどね。ただ、部屋に差し込む光は向かいのビルからの反射光くらいで、部屋から緑もほとんど見えませんでした。
それが、だんだんと歳を重ねてきたからか、『緑っていいなあ』とか『ああ、お日さまが沈んでいくなあ』とか、ここで自然の移ろいを感じることのほうに価値を感じるようになって。心が穏やかになっていることを実感しています。東京の中心で生まれ育ったのに、価値観って変わるものですね。たとえ東京に出るのに時間がかかったとしても、こちらでの暮らしのほうがいいなと思うようになりました」(奥様)
「最近、マンション内に音楽室があることに気づいたので、大音量を出したい時はそこを借りています。私の趣味部屋を防音室にするという案もありましたが、防音室にしなくてよかったです」(ご主人)
「ここに座って外を見ながらコーヒーを飲む時間が至福です。ここの窪みにはシーズンに合わせて本をディスプレイすることが多く、今はマティス展をやっているのでそれに合わせて。読みかけの積読の本はだいたいこの辺に置いています」(奥様)
それぞれのやり方で心地いい時間を過ごすお二人に休日の過ごし方を伺ってみると、
「休日は月に2、3回は二人で一緒に出かけます。美術展を見たり、神保町あたりでお買い物をしたり。私は神保町の書店街に行きたくて、夫はお茶の水の楽器屋街に行きたくて」(奥様)
「本屋は私も行くんですが回り方が違うんです。私は楽器屋がある上の方からで、彼女は下の方からで、大体降りてくる時間ぐらいを合流時間にして、それから夕飯を一緒に食べて。それでまた千葉に帰ってくる」(ご主人)
お互いの趣味はそれぞれのペースで楽しみ、共通して好きなことは共に分かち合う。そんな程よい距離感が自然と生まれるH様のこれからの暮らしの展開が楽しみです。