物件探しは、環境探し

リビングからは川が見える抜け感のある眺望で、一日中心地よい風が入ってくる、恵まれた環境にあるMさんご夫妻の住まい。コンクリート躯体現しをベースにした無骨な空間に、アジア各国の雑貨やDIYによる家具を加えたことで、温かみのある雰囲気になっています。

Mさんご夫妻の以前のお住まいは、浦安にある駅から徒歩15分ほどの団地でした。その頃、多忙を極めていたご主人。深夜のタクシー帰宅になることが多く、通勤の利便性を考え、都心への引越しを検討していました。

「探し始めたものの、都心部の物件は賃料が高いですし、何よりも賃貸だとお部屋の中を自由にできないことがいやだったので、それなら購入しようと思うようになりました。そして、江戸川区にあるの不動産屋で2~3件案内してもらったのですが、ピンとこなかったんです。新しめでそのまま住める、一般的にはいい物件でしたが、私たちの考えと噛み合わないような感じでした」(奥様)

そして、中古マンションリノベーションのコーディネートサービスを展開しているtotonoiの姉妹サイト「EcoDeco」を雑誌で知り、物件探しから依頼することに。現在の住まいは、一件目に内見した物件でした。

「ずっと団地に住んでいたのですが、緑が多かったり、人の生活感が感じられる環境が気にいっていました。この物件は目の前に川があって、周辺の緑も豊かだったので、その環境に惹かれたのが購入を決めた大きな理由でした」(奥様)

ストレスフリーで暮らすために。広さが許した「贅沢なプラン」

▶︎リビングから見た浴室エリア。タイル床の通路の左手がガラス張りの浴室、右手がバルコニーになっている

リノベーションの際、ご主人が唯一希望したのは、「外を見ながらお風呂に入りたい」ということ。バルコニーがある窓から、通路を挟んでレイアウトされたガラス張りのバスルームは、直には面していないものの外を存分に感じられる上、ラバトリーにも光が入り、洗濯動線的にも便利な間取りになっています。

▶︎贅沢なバスルームは、ガラス張りで外からの光を柔らかく取り込んでいる

「お風呂に窓がある家で育ったので、窓のないユニットバスの賃貸に暮らしていた時は、ストレスを感じていました。自分としては、玄関近くのエアコンがつけられない個室をお風呂にしようと考えていたのですが、配管の関係でそれができないと設計士さんから説明された時には、お風呂にこだわること自体を諦めそうになりました」(ご主人)

最初にイメージしていた場所ではなかったことと、提案されたプランはお風呂まわりに贅沢にスペースを使うことから躊躇いがあり、バスルームへの夢を諦めかけていたというご主人。その背中を押したのは、奥様でした。

▶︎洗面台はハードに使えるモルタルの天板とホーローのシンク製。

「妻が『一番こだわりたい事を簡単に諦めるのはもったいない』と言ってくれて。この広さがないと無理だったと思いますし、部屋数をいっぱい求めていたら出来なかったと思います。提案していただいたプランを見て、広い1部屋の中にトイレや風呂といった機能的な小部屋がポツポツある感じをイメージできたときに、落ちていたテンションが戻りましたね。僕の希望は風呂だけだったので、本当に諦めなくて良かったです」(ご主人)

M邸の面積は85㎡。二人暮らしには十二分な広さがあったこともあり、この贅沢なプランが叶いました。

スケルトンを活かすためにまず解体。選んだ素材は現場で確認

▶︎ダイニングテーブルがないおかげで、広くすっきりとしたLDKになっている

M邸のリノベーションプロジェクトでは本工事の契約をする前に、設計の早い段階で解体工事のみを先に契約するというイレギュラーな進行が行われました。もともとの内装や設備が解体されてスケルトンになった状態の空間を確認しつつ、設計の詳細を進めるというやり方です。

「建物が持っているスペックを活かした空間にしたかったので、設計プランが決定する前に解体していただけたことは本当に良かったです。引越し希望時期までのスケジュールに余裕があったからだと思いますが、解体してから内装を決めてもいいんだと分かったときは嬉しかったですし、スケルトンの状態を確認できたことで、設計も納得しながら進める事ができました」(奥様)

▶︎廊下から見たパントリー。左側の壁が白色のパテで仕上げた壁、右手がモルタルで仕上げたグレーの壁。どちらも風合いがある

浴室へのこだわり以外は、間取りもインテリアテイストも具体的なイメージを掲げずにリノベーションを始めたMさんご夫妻。プランニングは、「プランを提案されてから、あるいは実物を見てから、考えを深めていく」というスタイルで進行していきました。ザラっとした質感の白い壁の仕上げも、工事が動き始めてから現場で決めました。躯体現しやモルタル仕上げの壁から白壁が浮いてしまわないよう、全体の雰囲気に合わせて試行錯誤。左官職人さんに実際にサンプルを作ってもらいながら、微妙なニュアンスを共有して決定していきました。

白い面だけツルっとした普通の塗装だったら、その違和感で家具選びに悩んでいたかもしれません。テクスチャーに統一感があって割とクールな家具も合わせやすいから、この仕上げにして良かったです」

▶︎玄関側からリビングをみたところたっぷり通路幅があり、廊下というより部屋の感覚

フローリングは当初、ダークブラウンで染色しようと決めていたM様ですが、実物を見て改めて検討を重ね、最終的にはホワイトに染色にされました。選んでいた「節ありのオーク材」はワイルドな雰囲気がある素材なので、ホワイトに仕上げることで上品に仕上がりました。

「サンプルを作ってもらって昼と夜にじっくり見ながら検討したのですが、思いきって白にして良かったです。フローリングは引渡後に、自分たちでオイルを塗りました」(奥様)

暮らしながら変わる住まい。今後のライフスタイルの展望は?

家づくりの最中は、打合せ後に目黒通りを歩いたり、恵比寿から中目黒まで歩いてみたり、いろいろな家具を見ながら提案してもらった内容のイメージを膨らませて検討していたというMさんご夫妻。何度も悩み、検討を重ねてつくり上げた現在の住まいの、お気に入りの場所はどこなのか伺いました。

▶︎寝室にしている和室と土間の段差は、縁側のようなイメージ

「僕は和室の段差に座るのが好きですね。縁側みたいな感じで。その他にはやっぱりリビングから外を眺めるのが好きです。改めて自分にとって緑が重要なんだと気付かされました。落ち着きます」(ご主人)

▶︎寝室として使っている和室。畳の下は床下収納になっている

「私はリビングの中央に座って何もない壁をただぼーっと眺めているのがすごく好きです。そのまま壁から天井に目線を移していって寝っ転がるのが好きなんです!そのうち眠くなって(笑)。普通に仕上げた壁だったらすぐに飽きてしまっていたと思うんですが、全然飽きないです」(奥様)

▶︎リビングにはソファを置かず、こたつテーブルのみ。床に直接座る生活がお好きなのだそう

小物を作ったり、裁縫をしたり、沢山の植物を育てたり、自家栽培したハーブやバラを使った料理を楽しんだり。入居後もDIYを重ね、住まいのアレンジを楽しんでいるMさんご夫妻。

「時間の経過と共に好きなものが変わっていくので、なかなか家が完成しません。もともと持っていたツルッとした家具はあまり好きではなかったので、自分で塗装してシャビ-なテイストにするつもりだったのですが、そのままで十分良い感じになってます。少しずつ気に入った物を買い足したり、DIYでアレンジしていきたいです」(奥様)

▶︎住み始めてから数年が経過した2020年の様子。カウンターには裁縫スペースが追加され、天井からは照明や調理器具が吊るされています

家づくりは、引き渡しを受けたときが終わりだと思いがちですが、あくまで始まりなのだと教わったような気持ちになりました。「アレンジをしながら暮らしていくこと」そのものを楽しむMさんご夫妻の姿勢は、長い人生を楽しむヒントになりそうです。