結婚して31年目になるAさんご夫妻。今回リノベーションしたご自宅は26年前に新築で購入したマンションで、専用庭が付いた約70㎡の1階住戸。お二人はこのマンションを買った時点から、将来のリノベーションを計画していたと言います。
「いつかは夫婦二人が住みやすい家にリノベーションするつもりでした。家族の思い出が詰まった家ですし、立地も便利で街も気に入っていたので、住み替えは考えませんでした」(ご主人)
ご夫婦それぞれのご両親との同居予定はなく、息子さんは今年結婚して家庭を持ち、現在は同居している学生の娘さんも卒業したら自立する予定で、「これからを楽しむなら早いうちに」とこのタイミングでのリノベーションに踏み切ったのだそう。
「リノベーションは10社ぐらいに相談をしたと思います。私たちが重視したのは、営業の方が窓口になって設計を進めるのではなく、設計士と直にやりとりして家づくりができることでした。『自分たちが思っていたのと違う』というような結果になるのは避けたかったんです。そんな中、totonoiの姉妹サイトであるEcoDecoを見つけて、依頼者の方がどういう気持ちで家づくりを進めたのかが丁寧にレポートされた事例インタビューを読み、ヒアリングを大切にしている印象を受けました。スタッフの自宅リノベーションのレポートでは読者が知りたいリノベーションの裏側を伝えてくれたり、設計の方が依頼者の方と一緒にプロセスを楽しんでいる様子が伝わってきて、そこに信頼感を覚えて問い合わせをしました」(奥様)
EcoDecoの事例インタビューの中でも、コーディネーター兼設計スタッフの岡野が担当した事例に共感を覚えることが多かったというAさんご夫妻。EcoDecoへ岡野指名でお問い合わせをくださり、岡野が担当者としてリノベーションを進めることになりました。
Aさんご夫妻が初回の打ち合わせにお持ちくださったのは、「実現したいこと」「検討したいこと」「今の家で困っていること」をまとめた要望書。そこには「庭の緑を見ながら夫婦でコーヒーを飲みたい」といった暮らしのシーンから、「壁は白で建具は木、緑がある家」といったインテリアイメージ、「室内に段差をつくらない」「収納家具は置かずに造り付け収納にする」といった機能面への要望、各部の仕上げや使いたい設備、どんな家具や家電を置くのかまで、事細かに綴られていました。その内容の充実度は、担当の岡野が「ヒアリングする必要がないぐらいでした(笑)」と言うほど。
「以前の3LDKの間取りは夫婦と子ども二人で暮らすのにはちょうど良かったのですが、ドアが多くて何をするにも開け閉めのステップが発生するのがストレスでした。玄関と廊下が狭くて暗かったり、大物の収納場所が足りなかったり、コンセントがタコ足配線でコードだらけだったり…長年暮らすうちに使いづらさを感じていました。リノベーションで、合理的で家事効率が良く、シンプルで広々している家にしたいと考えていました」(ご主人)
要望書づくりの際は、自分たちが普段、家の中でどういう動きをしているかをよく考えたと話すAさんご夫妻。雑誌やウェブメディア、ピンタレストなどでさまざまな事例を見たり、家づくり経験のあるご友人にも話を聞き、具体的な要望や、実現するためのアイデアをまとめていったそうです。
「要望書をお渡しした後、岡野さんからは6つぐらいプランを提案してもらいました。お風呂はこのプランのが良くて、キッチンはこのプランのが良くて、と、いただいたプランを切り貼りしながら自分たちでも検討して。その過程があったので、出来上がったプランを納得して進めることができました」(ご主人)
そうしてたどり着いたのは、1LDK+納戸というプラン。独立型だったキッチンは庭に面した窓側に位置を移して対面型に。洗面脱衣室はキッチンからもリビング側からも出入りできる回遊動線にして家事動線を効率化し、二つの個室があった住戸北側のスペースは、ワークスペースを備えた寝室と納戸に生まれ変わりました。
Aさんご夫妻の住まいは1階住戸で、以前は直床だったため冬は床が冷たく、暖房器具をたくさん使っていました。今回のリノベーションで、床は二重床にしてガス式の床暖房を設置。床は玄関の上がり框以外の段差をなくし、すべての空間がフラットにつながるようにしました。「天井はなるべく高く見せたい」というご要望から、コンクリート躯体を直に塗装する仕上げに。建具も背を高く造作して、天井が高く感じられるよう工夫しています。
「建具はトイレ以外すべて引き戸にしました。ドアの開け閉めのステップが面倒だったこともありますし、開けっぱなしにするとドアの裏にゴミが溜まるのも嫌でした。今は、日中は引き戸を開け放ってワンルーム的に使っています」(奥様)
フロアに段差がなく、引き戸の開閉で出入りできる空間は掃除がしやすく、バリアフリーでもあります。将来への備えとして、トイレには必要になったら手摺りが取り付けられるよう、両側の壁に下地を入れました。
「リノベーションを考え始めた当初はワンルームにすることも考えていたんですが、娘が大学から専門学校に進学して学生期間が伸び、娘の部屋として使えるスペースが必要になりました。家でリモートワークをすることもあるので、寝室にワークスペースをつくって結果的に良かったです」(ご主人)
リビングのTVが眺められるようペニンシュラ型にしたキッチンは、二人でも悠々と作業ができる大きさ。背面のキッチンカウンターとのあいだもスペースをたっぷり設け、二人で作業しても体がぶつからないようにしました。庭に出入りできるバルコニーに面しており、光と風が入る心地良い空間です。
「キッチンがある場所はもともと和室で、壁と引き戸で仕切られていたので、LDK全体が明るくなりました。以前から家族みんなが料理を手伝ってくれていたのですが、キッチンがクローズド型で狭かったので、手伝ってもらっているのに快適じゃなくて(笑)。今のキッチンの使い勝手は最高です。夫が仕事の時は私がごはんを作って、夫が出勤しない日は夫が作って、二人とも家にいる時は一緒に料理をしています」(奥様)
Aさんご夫妻が空間づくりのテーマに掲げていたのは「合理的で便利で住みやすい」(ご主人)と「シンプルで広くて効率が良い」(奥様)こと。キッチン・洗面脱衣室・リビングダイニングを回遊できる動線のほかに、片付きやすく使いやすい収納づくりにもこだわりました。要望書でも、どこに何を収納したいのか、どんな収納にしたいのか、きっちりイメージを整理していました。
「奥が深くて手が届かない収納は、ただ物をしまっておくだけになってしまう。なので、しまうものに合わせてサイズを決めていって、手前だけに物が並ぶようにしました。収納の量は持っている物に合わせて決めるのではなく、つくれる収納の量に合わせて、持ち物を断捨離しました」(ご主人)
各所の収納の、サイズぴったりに整然と物が収まった様は壮観。中でもユニークな収納アイデアが、Aさんご夫妻の「ドライヤーをコンセントに挿したまま収納したい」というリクエストから生まれた、『コンセント付き引き出し』。同じアイデアで、リビングの造作収納の引き出しにも、スマホ充電用のコンセントが備え付けられています。
「コンセントが足りなくて、タコ足配線で家中延長コードだらけになっていたのがとても嫌だったんです。なので、コンセントの位置や数にもこだわりました。ダイニングテーブルでホットプレートを使う時の電源や、サーキュレーターや自転車のメンテナンス道具の電源が取れるように、リビングダイニングの床にも蓋付きのコンセントをつけてもらいました」(ご主人)
収納の使い勝手やコンセントの位置や数。どちらも暮らしに合っていないと地味にストレスを感じる部分です。そんな細かい部分に応えることができるのも、自由設計のフルリノベーションならでは。
「私たちが『こんなふうにしたい』と話すと、岡野さんは『やれるかやれないか』ではなく、『こんなふうにすればできますよ』と実現するための方法を考えて提案してくれるんです。コストについても『これをすると高くなる』『こうすれば安くなる』というふうに、常に判断材料を提示してくれるので、すべて納得して決めていくことができました。使いたいパーツをどこなら安く買えるかという情報まで教えてくれて、そこまでサポートしてくれるんだと感動しました」(奥様)
要望が具体的で、ディテールのイメージやアイデアもたくさんお持ちだったAさんご夫妻。プランが決まってからも、各部の素材や色の決定、収納の仕様や建具の取手など、細かい部分まで担当の岡野と綿密なやりとりを重ねて決定していきました。
「岡野さんはどんな話も聞いてくれて、アイデアも豊富で、やりとりするのが本当に楽しかったです。ひとつだけ不安だったのは、施工会社が別会社な点でした。設計は岡野さんとやりとりできるけど、施工についても私たちが施工会社と直にやりとりしなければいけないものだと思っていたんです。実際は岡野さんが施工会社の方とやりとりもしてくれたので、すごく安心感がありました。議事録をしっかりつけてくれることも良かったです。家づくりをした友人たちからよく聞いたのが『自分たちが言ったことと違うものができた』という話で、そういった事態が起こることを危惧していたんです。でも、私たちが現場にいない時の施工会社と岡野さんの打ち合わせ内容も議事録に記載してくれたので安心できましたし、現場で何か起きた場合にはすぐに共有してくれました」
「相談に行った何社かのリノベーション会社から費用感を聞いて、設計料も含めた予算を概算していました。最終的には予算をちょっとオーバーしてしまったのですが、最後の家づくりですし、やりたいことを諦めないことを選びました。岡野さんは常に減額につながる方法を考えてくれたし、壁の塗装も『自分たちでやれば減額になりますよ』と提案してくれて、それで自分たちで行いました」(ご主人)
リノベーションについて、あらかじめいろいろ調べていたことが役立ったと話すAさんご夫妻。ご自分たちにある程度の知識が備わっていたことで、ほかの方法や選択肢があることも受け入れ、柔軟に検討することができたと言います。
リノベーションを機に、この家を買った時から変えていなかったという家電も一新。とはいえ、単純に新しいものに買い替えるのではなく、土鍋でご飯を炊くことにして炊飯器をなくしたり、グリルでパンが焼けるIHコンロを選んでトースターをなくすなど、なるべく物を置かないすっきりした暮らしを叶えるために、家電との付き合い方も見直したそうです。
「以前は家事が好きではなかったんですが、今は家をきれいに維持したいので家事をするのが楽しくなりました。あと、新しい家になってから、お花を飾るようになりました。週に一回、お花を変えて生けています。今まで作ったことがないお料理にチャレンジしたり、ワインを飲みながらゆっくり食事したり。今後はお友達を呼んでパーティーもしたいですね」(奥様)
夫婦二人暮らしを謳歌するためのステージを手に入れたお二人に、今後の「やりたいこと」を聞いてみると、
「庭に面している窓の前に座って、夫婦二人で庭を眺めながらコーヒーを飲むという夢があるんです。近いうちにマンションの大規模修繕工事があるので、それが終わったら庭を手入れして、カーテンを開け放った生活がしたいんです」(奥様)
「今はこの家をより快適にするためのことをするのが趣味ですね。二人で仲良く心にゆとりをもって暮らしていきたいです」(ご主人)
この家でどんな暮らしのシーンが展開されていくのか、楽しみです。