H様邸@杉並区のビフォーアフター平面図

引っ越しを考え始めてから10年経ってのリノベーション

▶︎ベッドが隠れる高さの壁をつくり、生活感が出ないよう工夫。室内窓を開ければ、適度な風が吹き抜けます

H様は、現在お住まいのマンションをリフォーム済みの状態で購入し、約20年暮らしてきました。10年ほど暮らすとモノが増え、細かく仕切られた間取りや分散した収納に使いづらさを感じるように。H様は引っ越しを考えるようになりましたが、窓が大きく眺望もいいこのお部屋を手放したくない…と、踏ん切りがつかないままさらに10年が経過していたそうです。

「自分がしたい暮らしができていないという思いはあったんです。とはいえ引っ越しも面倒だったり、駅から近くて住環境も気に入っていたので『古いマンションでもリノベーションできるかな?』と調べたり、『中古を買って、リノベーション。』(※)を読んだりしているうちに数年が経って(笑)。偶然まとまったお休みが取れたことがきかっけになり、問い合わせからリノベーションまで、流れに乗るように進んで行きました」(H様)

※totonoiを運営する株式会社Style&Deco代表の谷島香奈子の著書。

家づくりへのリクエストは「明るい部屋」

▶︎フラワーデザイナーというお仕事柄、家のいたるところに色彩豊かな花が生けられています。H様にとってお花は暮らしの一部

H様からのリクエストは「明るい部屋にしたい」ということ。角部屋で窓も多いのに、以前は部屋が細かく仕切られており、寝室が暗い北側にあり、収納に使っていた部屋は明るい位置にあるなど、Hさんが望む使い方に合わない間取りでした。

「造り付けの収納も多かったので全体的に使いづらく、どこか悶々とした気持ちを抱えたまま暮らしていました。今、ウォークインクローゼットがある位置は、元は寝室でしたが、断熱がほとんどされていないせいで冬は寒いし、夏はエアコンの風が直撃して寒かったのも悩みでしたね。デザインについては、シンプルで明るいトーン、寝室をガラスで仕切りたいこと、どこか一面に色を使いたいことをリクエストしました」(H様)

女性一人でも安心して進められたリノベーション

▶︎設計を担当した齋藤とリノベーション当時のことを楽しげに振り返るH様

「プランづくりの際は、『委ねること』と『リクエストしたいこと』のバランスが良かったように思います。設計の齋藤さんにリードしてもらい、要所要所でアドバイスもいただきながら、流れに乗って進めていきました。一人暮らしなので、最初は相談する相手がいないのが少し不安でしたが、仮住まいを決めるタイミングや、欲しいテイストの家具の情報など、なんでも丁寧に教えていただけたので安心して頼れました。もちろん決断して実行するのは自分ですが、一人では思いつかないアイデアや調べきれない情報をたくさんいただくことができたからこそ、想像以上の仕上がりの部屋になったと思います」(H様)

お花も映えるブルーの壁をアクセントに

▶︎鮮やかなブルーの壁が出迎える玄関にもグリーンをディスプレイ。植物で住まいを彩る暮らしを楽しんでいます

H様の「どこかに色を使いたい」というリクエストは、寝室、玄関、ダイニング、インナーテラスと、各スペースの壁や梁などに部分的に取り入れて実現。鮮やかなブルーは調色でつくったH様オリジナルのカラーです。

「ブルーが好きなのでアクセントにしたくて。悩みに悩んで、最終的には直感と、私がお仕事でお世話になっているオランダ人の先生にもアドバイスをもらって、オリジナルで調色してもらい)ディック・ブルーナ(※オランダ出身のデザイナーも好きで、彼のシンプルな色合わせや色彩のバランスも、部屋づくりへのインスピレーションを与えてくれました」(H様)

▶︎バルコニーへの出入りは、インナーテラスからがメイン。サンダルも気軽に置ける半屋外スペースです

リビングと寝室は木枠のガラスと室内窓で仕切られ、光も風も通る心地よい空間になっています。また、寝室とバルコニーの間にはタイル貼りのインナーテラスがあり、半屋外の役割を担っています。

「インナーテラスにカウンターを設けてもらったので、簡易的な撮影スタジオとしても活用しています。窓から光がきれいに差し込むので、先生と一緒にSNS用の写真や動画を撮ることもありますし、スクールで作った作品をここに飾ることも多いです。床をタイル貼りにしたのは大正解。水を使うことも多いし、空間がつながったままゾーニングできるので、タイルにしてよかったですね。天井に取り付けたバーも、吊るすタイプのフラワーデザインを飾ったり、洗濯物を干したりと、何かと便利で気に入っています」(H様)

ダイニングセットは「高さ」にこだわった

▶︎HUKLAのソファはリビングの主役。もたれた時に頭までおさまる高い背面がくつろげるポイントです

H様のダイニングセットは椅子とテーブルが低めに作られています。これは、ご勤務先のフラワーアレンジメントスクールにある、座面が広くて低い椅子がとても使いやすいと感じていたからだそう。

「椅子の高さはこだわりました。テーブルと椅子は齋藤さんに紹介してもらった吉祥寺にある無垢家具のSOLIWOOD PRODUCTSで。あとから購入した椅子はInstagramで見かけたミナペルホネンのファブリックに一目惚れして、宮崎椅子製作所のものを愛知県安城市にある『Soup. Life Store』というお店でオーダーしました。通常の椅子よりも座高が低いので、足が床にぴったりと着いて肩の位置も楽ですよ。食事も仕事もこのテーブルを使おうと考えていたので、体への負担が少ないことを重視しました」(H様)

一番大変だったことは何よりも「モノの処分」

▶︎モノを出しっぱなしにするのを避けるため、あえてダイニングテーブルで仕事をしているというH様

長く住まわれていた分、モノを処分されるのが大変だったと話すH様。処分に苦労した分、その後の暮らし方に工夫をするようになり、現在は、あえて仕事用のデスクを置かずに、食事もとるダイニングテーブルで仕事をしています。そうすることで、モノを出しっ放しにしないという意識が働き、使い終わったら収納に仕舞うことがルーティーンになっているそうです。

「モノの処分は本当に大変でした。ただ、大事にしていても、もう二度と使わないモノは思い切って処分したんです。ウォークインクローゼットにきれいに収まっている状態をキープできるよう、今もモノを増やさないよう気をつけています」(H様)

仮住まいの築浅UR賃貸で実感した「目に見えない部分」の重要さ

▶︎インナーサッシを取り付けて断熱効果と防音性がUP。外の空気や音に左右されない快適な住空間が実現しました

自宅をリノベーションする場合、ネックになるのが「仮住まい」探し。H様の場合は設計担当者からのアドバイスで、ご自宅から徒歩圏内にあるUR賃貸の短期賃貸ができるお部屋を見つけました。築浅物件で設備が新しく、断熱などの住宅性能も高かったため、ご自宅のリノベーションについて、見た目以外の「快適さ」にも目を向けるきっかけになったそうです。

「仮住まいには11〜3月と寒い時期に住んでいたのですが、断熱材がきちんと施されていて床暖房も付いていたので、エアコンがいらないくらい暖かくてびっくりしました。体感するまでは断熱を強化することに迷いがありましたが『こんなに暖かいなら、見えないところもちゃんとしよう』と思うようになりました」(H様)

将来的にも快適に暮らせる工夫

▶︎白のシンク、水栓の形、木目の雰囲気をリクエストした造作のキッチン。使いやすくなってお料理をすることが増えたそう

H様は、将来にも考慮して、機能や設備面に気を配りました。例えば、掃除がしやすいようにお部屋全体にできるだけ段差をつくらないこと。エアコンは天井に埋め込むタイプのものにして、直風が当たらず、快適なものを採用。また、トイレや浴室には手すりを設置するなど、今と同じように動けなくなった時にも暮らしやすいよう設計しました。

「キッチンの足元の扉はなるべく引き出し式にしました。これから年を重ねていくと、かがんで観音開きの扉を開け閉めするのが億劫になりそうで。新築に憧れたこともありますが、こういう細かいところまで自分好みにつくってもらえるところがリノベの良さですよね」(H様)

▶︎キッチンの収納はできるかぎり引き出し式にしました。フライパンを立てて収納できることもお気に入りだそう

▶︎洗面台は造作。タイルは大好きなディック・ブルーナの色使いやモチーフを参考にしたそうです

 

▶︎エアコンの配管を隠すためにつくったニッチには、お気に入りの雑貨などを並べて

「断熱や空気の流れなど見えない部分が変わると、暮らしが本当に快適になります。こんなに快適なら、もっと早くリノベーションをすればよかったなって思います」(H様)

出会った当初は「明るいお部屋にしたい」とリクエストされていたH様ですが、快適な生活のために必要だったのは、暮らしを見つめ直す過程で気づいた、目には見えない部分の改善でした。現在の暮らしを楽しそうに話すH様。20年後30年後も、お花と共に楽しく暮らしているお姿が想像できる、素敵な笑顔でした。