第一回では、私たちが理想の働き方を見つけるまでについてお話しました。今回は、自分が望んで理想の働き方を実現しようとしているのに、「自らの足を引っ張る考え方、価値観」があったことについて、振り返りたいと思います。

「何かを犠牲にしなければ何かは得られない」という価値観を見直す

私たちの会社では、6年の年月をかけて、自分を活かしやすい環境を選び、人間関係を構築し、そして育んでいくことに取り組んできました。長い時間をかけて話し合った結果、私たちの会社の理想の姿(ミッション)を「暮らしを大切にする会社」と決めました。お客様に真剣に向き合い、いままで通り大切に考えるのはもちろんのことですが、働く自分たち自身の暮らしも大切にしていく。というメッセージを込めています。

恥ずかしながら、以前は、リノベーションという事業を通じて、お客様の暮らしに対しては真摯に向き合うのに、自分たちの働き方や暮らしのことを後回しに考えてしまっていたのです。自分のことは後回しで、売り上げ目標に向かってがむしゃらに努力し、我慢をする。そして、全員が歩調を合わせる。仕事のためにプライベートを犠牲にすることになっても仕方ないという古い価値観をリーダーである私は変える事ができませんでした。いや、変えようとしなかったからだと思います。

私たちの会社は、暮らしを軸に事業を展開しているので、暮らしを大切にするミッションとなりましたが、「自分を犠牲にして他人のために尽くす」利他の心を美徳としていた時代から、自分を犠牲にして成長するより、「自分も含めた利他で繁栄していく時代」へと移り変わっていることを痛感しています。

何かを犠牲にしなければ何かは得られないという価値観を見直して、「自分が好きなこと、楽しめることを追求した延長線上に、他人の幸せもある」という状態をつくりあげることが、今いるメンバーの理想を叶え、結果、個人としても組織としても、持続可能な働き方に近づくのだと思います。

 

努力の方向性を間違わない

わがままを追求し、心地よく働く。自分もメンバーも楽しく働ける環境をつくるというと綺麗事のように聞こえるかもしれません。私自身もこれまで培ってきた思い込みをリセットするには時間が必要でした。

というのも、私が働き始めたのは2000年の超就職氷河期。インターネットを使った就活が始まった年代で、女性は総合職か一般職を選択するのがまだ一般的な時代でした。政府は「女性活躍推進」と提唱していましたが、ロールモデルもいないため、10年後、20年後に自分が働いている姿なんて想像もできませんでした。

ただただ、多くのことを我慢して、身を粉にして働き、「がんばればがんばるほど結果は出る」、「自分のことは犠牲にして会社に尽くす」、「目標はどんどん高くしていくもの」という価値基準を身につけ、それが私の“正解”の一つになっていました。このような過去の“正解”や“会社とはこうあるべき”という思い込みを、一度全てリセットすることが実は一番の難所でした。

自分がありのままに働く環境を整えることは、楽をすることとは違います。自分を活かし、他人も自分を活かしあいながら関係を構築し続けることは大変な努力と手間暇が必要です。

自分を活かすための環境を作りあげ、人間関係の構築のためには、自分と向き合い、そして他人と向き合う根気も必要となります。

でも、私たちなら変わることはできると思います。

なぜなら、自分自身を犠牲にして、高い目標をクリアしてきた努力家世代だから。努力の方向性を変えて、これからは、自分らしく働くために努力をしませんか。それが、自分自身にとってもチームのメンバーにとっても最適な働き方に繋がっていきます。

 

右肩上がりを目指さない

チームのメンバーと話し合いを重ねた時にそこから出てきた本心、それは、「生産性よりも大切にしたいものがある」ということでした。

お客様であれスタッフであれ、自分たちの暮らしに真摯に丁寧に向き合うこと。それを実現するために、「右肩上がりの成長を目指す」ことをやめたのです。「あえて右肩上がりを目指さない」という宣言もしました。

大部分の経営者は、「会社は右肩上がりでなければいけない」という固定観念のもと、そのためにさまざまな施策を繰り出します。売上対前年比●●%アップ、前年比で●●の成長率など、常に売り上げを上げ続けることが当然とされています。

しかし、それが自分の会社にとって本当に必要なことなのかどうか。右肩上がりを目指さない……、言葉のフレーズだけ見ると、ただの逃避のようにも思われてしまうかもしれません。実際に「経営をあきらめたのですか?」とか「戦線離脱ですか?」といったような言われ方さえしました。

でも、そうではないのです。自分たちの暮らしを真摯に丁寧に向き合うために、これは前向きな決意の結果出てきた言葉でした。

ちなみに、私たちが「右肩上がりを目指さなくてもいい」と考えはじめた頃は、まだそんな「消極的な」意見はほとんどありませんでした。少なくとも、中古住宅やリノベーションの業界は、2010(平成22)年に国土交通省より打ち出された「中古住宅・リフォーム市場の倍増」により、拡大路線にあったのです。リノベーションの雑誌を見ても部数が拡大。同業他社は広告もガンガン打ち出している、まさに「右肩上がり」の状況でしたから。そんな環境の中で、「右肩上がりを目指さない」ということを宣言するのは、正直、本当に勇気が必要でした。

 

会社が成り立つ最低限の売り上げを維持することからのリ・スタート

右肩上がりを目指さないということは、売り上げを上げないということではありません。株式会社は、売り上げがなければお給料を払うこともできません。会社が成り立たなければ、自分たちが求める働き方もできません。そこで、私が目指す先として定めたのは、「会社が成り立つ最低限の売り上げは維持する」ということ。自分たちで決めた心地いい働き方を守るために、会社が成り立つ最低限の売り上げを全員で維持することにしたのです。過去の数字を洗い出し、人件費、家賃、経費などの金額をはじき出し、その数字をみんなで共有しました。

以前は「ボーナスは完全歩合。売り上げに比例して支給」だったものを、改革後は、会社が成り立つ最低限の売り上げを守ることを前提に、「ボーナスは年2回。固定給の一か月分を支給」に改定しました。その上で、もし売り上げが好調で、“会社が成り立つ最低限の売り上げ”を超えたら、決算時にその分を分配することとしました。

無駄な競争をしないことにしたのです。これで、他社と、あるいはスタッフ同士で「競い合う」というギクシャクした雰囲気も、集客などのその他の業務も多く、担当しているお客様のための時間が取れないといったジレンマもなくなりました。よりシンプルに会社のミッション、ビジョンに向き合うことができ、ミッションと自分たちの行動にギャップがなくなっていったのです。理想と現実との間に大きなギャップをつくらないことが、心地よく生きる術でもあると思いますが、これを仕事において実践しました。

ところが不思議と「右肩上がり」を目指さなくなってから、毎年売り上げは伸びてきています。もちろん、それはそれで大歓迎。働きやすい環境が出来たことで、スタッフの定着率も上がりました。業務に真摯に向き合える環境が整ってきたことで、一人ひとりの業務の範囲も増え、お互いにカバーし合える範囲も格段に広がりました。仕事も含めた自分たちの暮らしに真摯に向き合った結果、毎年売り上げは伸びていきました。本来、目指すべきものの方向性とは、こうあるものかもしれません。

売り上げ目標を達成するために自分を犠牲にして努力するという発想を辞めて、自分自身が大切にしているものの延長線上に他人の幸せがある状態をつくることに注力する。右肩上がりの利潤追求ではなく「皆にとって最適な状態を守り続けるための変化」に重きを置きました。時代が大きく変化をしていることを感じる今、守ることは退化することではなく、変化を受け入れることだと感じています。

自分たちが大事にしている働き方を守るためにも、変化を受け入れてみませんか。

これからの働き方、暮らし方」コラム第2回では、これまで大切だと思っていた、自己犠牲の精神や売り上げ目標の達成への考え方を大きくリセットしたことについてお話しました。第3回では、私たちがどのような人間関係を構築したいのか。どのような仲間と働きたいのかに向き合い、会社のあり方についても再定義していくまでを綴ります。

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会社のあり方