緩やかに繋がりながらそれぞれ自立した父娘の同居生活を送るYさん。親の老後のお世話をするため同居とは違う、「今一緒に暮らしているだけ」という肩肘を張ることのない、ルームシェアのようなちょうどいい距離感です。
「父は70代後半になりますが、アクティブで働いています。今日もそうですが、休日も朝から出かけてしまうような人です。私は都内の会社に勤めていて平日は必ず通勤していて、週末は家でゆっくりするという生活です。」(Y様)
Yさん父娘が暮らすのは、長く暮らしてきた海浜幕張にある、大規模なマンション群のひと部屋。ご実家の建て替え話をきっかけにご自身でマンションを購入し、totonoiの姉妹事業「EcoDeco」に依頼してフルリノベーションしました。
「もともとここから2kmくらい離れた戸建に家族3人で住んでいました。数年前に母が他界し、家も古くなっていたこともあり、父と建て替えの話をしていく中で、ふと『自分の家を買う』という選択肢もあるかも、と思ったんです。通勤圏内だったのでなんとなく実家暮らしを続けていましたが、自分の資金で、自分名義の家が欲しくなったというか。これまでは家を買うなんてあまり考えられなかったのですが、母のこともあってか、数年前にどこか吹っ切れた部分があって。『今、自分がしたいことをして生きよう!』と、自分の中でスイッチが切り変わったんです。」
Yさんの住まいに対する考え方はとても軽やかで、「自分の家を持つ」ことが最優先で、特にリノベーションのテーマや、将来のこと、終の住処として購入するのか、売却を前提とするのかなどと決めず、「今の自分が欲しいモノ」「今良いと思うこと」を大切にしたといいます。
「もし将来、もっと広い部屋が必要なったり、不便が出てきたりしたら、それはその時に考えればいいかなって。」
そう考えたYさんが物件探しをしたのは、住み慣れた海浜幕張エリアでした。はじめの頃は駅前の新築マンションや購入したエリアのリフォーム済みマンションを内見。この頃は、「リフォームとリノベーションって何が違うの?」というところからのスタートでした。「駅からは距離があるものの広くて気に入った」中古マンションを買い逃してしまい、家探しが嫌になったところから、物件に求める条件を見直したところで出会ったのが今の住まいです。
「物件の条件を見直すときにアドバイスをくれたのが父でした。広さを求めて駅から遠くなってしまうより、多少広さを犠牲にしても駅に近い方が住みやすいんじゃないかって。あと、エリアを考えるときに、住み慣れた街という意味で海浜幕張を選びましたが、父のことも少し心配だったのもあるんです。父は元気ですし、特に何も言われていないんですけどね。」
心配だと口に出さずとも結果的に同居をスタートしているYさんですが、物件探しを始めた当初はそれぞれ一人暮らしをする予定でした。お父様は「娘が独立するならば」と、実家を売却してどこか別の場所への住み替えを計画されていたので、Yさんも「いつ一緒に住むことになっても良いように、お父さんのスペースも用意しておこう」という程度のゆるいスタンスで考えていたそう。
「結局、私のマンション購入と実家の売却のタイミングが合ったので、最初から一緒に住んでいますが、お互いに同居を前提にしていたわけではなかったです。父も、ずっと一緒に住むつもりという訳ではなく、『いつ出て行ってもいいし』くらいのスタンスです。それに、家に関してのお財布は別々で、実家を売ったお金は父が自身で管理していますし、私は私でリノベは自分の資金でやるという事にこだわりたかったので、援助は受けていないんです。」
長年住み慣れた住まいを手放すことに抵抗感がある方が多い中(年齢を重ねた方であれば尚更のこと)、父娘共に合理的な判断の元で実家を売却し、お父様ご自身も資産整理ができたことに満足されています。
「大体、皆さん実家ってそのままだと思うんです。私の年齢ですでに実家を処分した人は、周りにはいなくて。いつかは資産整理をしなければいけないタイミングが来るものなので、凄く肩の荷が降りました。実家にあったモノに関しても、父と自分の目で見て分別してきました。おそらくみなさん同じだと思うのですが、実家には小さい頃からの全てのものがありますよね。それを両親が施設に入ってからとか、亡くなってから整理するのでは遅いと思っていて。一通り供養と言っていいのかわからないですけど、全部整理ができたのはすごくよかったです。実家を購入した人は建て直さずそのまま住んでいるので、前を通るとそのまま残っているのがうれしいです。」
中古マンションの購入が決まり、不動産仲介会社のリフォーム部門の方から提案を受けたものの、「何かちがう」と感じたYさん。リノベパートナー探しをインターネット上で探すところからスタート、その中で見つけたのが設計を担当した岡野のブログ記事でした。
「リノベに向いている物件の選び方という記事を読んだ時は、『もっと早く出会っていたら一人で悩まずに済んだし、もっといい家が買えたかも』と、欲張りな気持ちが芽生えたことを覚えています(笑)。事例も好みだったので連絡をし、オンラインミーティングをしていただきました。画面越しでしたが、即決で岡野さんに依頼しましたね。きっと長いお付き合いになるので、担当者さんとの相性が大事だなと感じていて。その意味で、岡野さんのコミュニケーションの塩梅というかスムーズさがよかったのだと思います。」
Yさんの周りにはリノベーション経験者がいらっしゃらず、リノベーションについてほぼご自身で判断しなければいけないことが大変だったそうです。家にまつわるすべてを自分で決めなければいけない状況は、精神的にも体力的にも大変でしたが、それ以上に楽しかったと仰います。
「いつも岡野さんが絶妙なタイミングで導いてくださったので本当に助かりました。『何か困っている時は相談してくださいね』というのではなく、会話の中で自然と選びやすい流れにしてくださるというか。『これとこれで迷ってそうだな』と察してサッと具体例を提示してくれたので、すごく進めやすかったです。」
Yさんは、リノベーションプロジェクトを進める中で、浴室やキッチンのグレードから、照明、コンセントの数や位置、タオルをかけるバーや水栓などのパーツに至るまで、すべてを自分で選んで決められる事に驚いたそう。
「もし新築マンションを購入していたら『最初から用意されて当たり前』で、その楽しさを知らないままだったと思います。できることならもう一回やりたいくらい楽しかったです!その時は物件探しからEcoDecoさんにお願いしたいです。」
様々な設備機器やパーツを選び、使う中で感じているのは「毎日使うモノには投資をしたほうがいい」ということ。例えばトイレは採用したTOTOのネオレストにするか、もっと低価格のものに するか悩んだそうですが、メンテナンス性が高いものを選んで正解だったと仰います。
「掃除がラクだと綺麗な状態を保てますし、閉じた時の丸い形が好みなので、トイレに入るたびに「かわいいな」と思っちゃいます。トイレなのに。他にもあって、広い洗面台にもこだわりました。朝、髪を濡らして寝癖を直すので、水ハネの心配がないくらい大きな洗面ボウルがよかったんです。グローエの水栓も高さがあって使いやすくてパーフェクトです!」
Yさんの住まいは67㎡ですが、コンパクトなところがなく、全体的にゆったりとしています。玄関ホールには両脇から自然光が入り、明るく広々とした印象の空間です。
「狭くて暗い玄関にしたくなかったので、広くしたいとリクエストしました。玄関土間には物を置ける様な場所を作ったのですが、まだ置くような物もないので、今は野菜置き場にしています。今日は何もありませんが、もう少ししたら父親が自身の実家近くで白子の玉ねぎを買い付けてきてくれます。」
家全体も広々とさせたかったので、なるべく扉や壁も少なくしています。それと、作業のしやすい広いテーブルがほしくてカウンターテーブルを造作してもらいました。我が家は親子で食卓を囲むというライフスタイルではないので、一人でサッと食べられる場所があれば良いかなと思いカウンターにしましたが、これがもう万能!食事をするのもくつろぐのも、ほぼここです。」
食事以外にも、iPadでイラストを描いて遊んだり、お菓子づくりの作業台としても活躍。「仕事から帰ってくるとほぼずっとこのあたりにいる」ほどだそう。
大きなキッチンカウンターですが、二人の食事時間は別々。どちらかのために作り置きをすることもあまりされないそうです。この義務感のなさが居心地よさにつながるのかもしれません。Yさんの住まいは1LDK+WIC。WICは父娘共用で、個室はお父様が使い、Yさんの寝室はLDKの中にあります。
「仲は良いので二人で駅前の居酒屋に飲みに行くこともありますが、基本的には顔を合わせる時間は少ないです。平日は私の帰宅が遅いので父は先に食事を済ませていますし、反対に休日は私がゆっくり寝ていて、父は朝からゴルフや運動に出掛けていることも多いです。今日も朝からスーパー銭湯に行っちゃいました。私のベッドはリビングにありますが、実際に寝起きしてみると適度にプライベート感もあるし、朝、先に起きた父がキッチンに立っていても気付かずに眠れているのでこのままでいいか、と。」
個室を使うお父様のインテリアは非常にシンプルで、畳ベッドと床置きのテレビ、小さなブックラックのみが置かれています。
「実家の整理でゴミの処分が大変だったので今はモノを買うことに慎重になっているというのもありますが、父自身は昔からモノを持たないので今のミニマムな暮らしには賛同してくれているんです。ただ、テレビだけはリクエストされたのでしぶしぶ買いました(笑)。ベッドに関しては、以前は和室で寝起きしていた父から畳ベッドがいいとリクエストがあって、二人とも同じものを使っています。床に布団を敷くよりも寝起きが楽ですし、朝はパッと畳むだけで気楽なのもいいです。リノベを考えたきっかけ同様、このベッドも『今の自分が欲しいモノ』のひとつですね。」
お父様の個室は北側に位置する部屋ですが、床暖房を入れているので冬も暖かく過ごせたそう。床暖房は他にキッチン、リビングに採用しています。
「家自体が暖かいので、私はあまり使っていませんが、父には『せっかく入れたんだから、使ってね。』と伝えたら、すごく喜んで使ってくれています。」
Yさんは家づくりの中で積極的にDIYを実行。壁の下地と建具のオイル塗装、キッチンと洗面のタイル貼りをされましたが、特にタイル貼りが楽しかったと振り返ります。
「時間も手間もかかりますし、プロに頼んだほうが綺麗に仕上がるとは思うので、減額のためだけにやろうとすると大変かもしれませんが、私は手を動かすことが好きなのですごく楽しかったです!壮大な作品づくりをしている感覚でした。やってよかったと実感するのは、この家の成り立ちを理解できたことです。たとえば下地を塗ることで壁の構造を理解できましたし、もっと遡るとスケルトンの状態を見て、どういう順序でこの部屋が造られているのかを分かっているんですよね。それって大きな安心感に繋がるんだなと後から気づきました。この部屋の引渡しを受けてすぐに岡野さんと内見に来て、ハンマーで壁を叩き壊しながらプランを相談したときの光景は忘れないです(笑)。丸裸状態からフルリノベーションできたからこその満足感だと思います。」
キッチンはIKEAのキャビネットにオーダーした天板を組み合わせたステンレスキッチン。IKEAオリジナルの天板だとシンクにレールが付いていないものしかなく、使い勝手を向上させるために別のメーカーにオーダーしたそうです。
「IKEAにキッチンを選びに行く時は岡野さんもタイミングが合ったからということで一緒に来てくださって、心強かったです。IKEAのキッチンは希望していたオールステンレス製の製品がリーズナブルに購入でき、カスタムができるので選んだものの、どのパーツが必要でどれが不要かというのは私だけでは判断ができませんでした。」
現在はペットの猫と亀も同居しています。まんまる顔のかわいらしいミュウちゃんと、水槽の中で遊んでいる亀さんに会えました。
「猫のミュウは今3歳です。コロナ禍で人があまり外に出ない時期だったせいか、近所で野良猫が繁殖していたみたいで、実家の庭にいたのを拾いました。水槽にいる亀は初めて飼ったペットです。高校生の頃に縁日で持ち帰ってそこからずっと元気に育って大きくなりました。」
リビングには、リノベーションをしてから購入したというリラックス感のあるソファがあります。
「引っ越しを機にずっと欲しかったリーン・ロゼのものを購入しました。家の中での定位置はキッチンカウンターですが、夕食後、家事がひと通り落ち着くとこちらに座ることが多いです。居心地が良すぎて気づくと朝、なんてこともしょっちゅう(笑)。猫が占領していることも多いので、そんな時は、私は床に座ってクッションやパフでくつろいでいます。」
「リノベをして、この家で暮らすようになってからは、週末は家にいる時間が増えました。平米数では実家のほうが断然広かったものの、スペースがある分モノも多くて、何をするにも限界がありましたが、今は自分が望んだ家に、自分が好きで集めたモノを置いているので、家にいることがもっと好きになりました。今後は、キッチン横にデスクを置いてミシンやアイロンがけのできる趣味のスペースを作りたいな思っています。ただ、このキッチンカウンターが万能すぎてなかなか進んでいません(笑)。」
寄り添い合うとは違った、お互いに自立した父娘の共同生活。その自由な距離感にお互いがそれぞれの生活を楽しみながら、心地良く暮らしていらっしゃることが伝わってきました。
Yさんがが仰っていた「今を楽しむ」ということは、決して刹那的な意味合いではなく、楽しむ日々を積み重ねることで、「その先も楽しむ」ことにつながっていくということを体現していらっしゃるように感じました。Yさん父娘の暮らしの「その先」が楽しみです。