ーリビングに飾っているバレエの写真は坂さんですか?
坂さん 一時期クラシックバレエにハマっていたんです。バレエって発表会に出るとなると練習がすごくハードで。当時は長男がまだ幼かったのですが、年末年始は全部練習に費やしたこともありました。その時は母が長男の世話をして助けてくれました。もともと学生時代から夫と一緒にリズム体操をやっていて、お互い社会人になっても続けていたので、二人で発表会に出場したこともあったんですよ。
ー当時も奥様は学校の先生をされていたのですよね?
坂さん していましたね。だから両親にはかなり支えてもらいました。二人が上京してくれたおかげで、生活に追われすぎず、こうしてゆとりを持って暮らすことができたと思います。父と母には日々助けてもらってばかりなので、三世代一緒に家族旅行であちこちの海外に出かけて恩返ししています。
お母様 昔からやると決めたらとことんやる人だからね。
坂さん 私がいろいろなことに挑戦できているのは、両親の支えと共に、出会いに恵まれていることも大きいと思います。子供が幼い頃は「お芝居を見る会」に入って。あらゆるジャンルの舞台を友人家族と鑑賞していました。歌舞伎、声楽、ミュージカルとなんでも。子供たちは大騒ぎで大変でしたが楽しかったですね。その会を一緒にやっていた友人とは今も家族ぐるみで仲良し。学生時代の友人もおもしろい人が多いんですよ。九州に住んでいる友人とはオンラインでセッションを楽しんでいます。私がフルートで、彼女がチェロ。学生時代はクラリネットをやっていた彼女が、今は独学でチェロをマスターしているんです。彼女の話を聞いていると「私にも何かできそう!」とクリエイティブを刺激されて。再来週、鹿児島で会って久しぶりに対面でセッションする予定です。
ーアクティブですね。ピアノは今も続けていますか?
坂さん 息子たちも大きくなったので今は私一人で弾いていますが、以前は、親子四人の連弾や両親を含めた三世代での連弾で発表会に出たこともありました。ピアノを始めたきっかけも先生との出会いに恵まれたおかげですね。個人で開いている音楽教室で、何かと融通をきいてくださったので仕事や学業と並行して続けやすくて。家族三世代全員で15年通っていました。
坂さん うちはクリスマス会や誕生日会もプログラムをつくって全力でやっているので楽しいですよ。
ー仲良しですね!発案者は坂さんですか?
坂さん はい、だいたい私です。そういうことを企画するのが好きなんです。事前にいろいろと準備して、当日はジェスチャーゲームをしたり、クリスマスソングを順番に歌って動画を撮ったり。長男の二十歳のお祝いの食事会の時は、夫婦でこっそり歌の練習をして、小道具や振付も用意して披露しました。
お母様 イベント好きな家族ですよね(笑)。
ー家族が仲良くいられる秘訣はありますか?
坂さん もちろん喧嘩もしますよ。でも、もう皆が大人なので喧嘩になる原因はお互いにわかっているので、お互いそこには触れない(笑)。長男は朝が弱いので午前中はあまり話しかけません。反対に私は夜がダメ。21時くらいまではニコニコしているけど21時半を過ぎると無口になっていく。あと、空腹になると怒りっぽくなるというのもあるかな。
ご主人 よく言えば天真爛漫だよね(笑)。「こうあるべき」という型にはまっていない人です。
ーなるほど。息子さんから見てどんなご両親ですか?
ご長男 母も父もどちらかというと自由な人だと思います。高校生の頃、「中退して大検をとって大学を卒業する。そのほうが効率良く勉強できると思う」と話した時も賛成してくれたので、二人とも教師なのにちょっと変わっているなと思いました(笑)。
坂さん 結局、高校は卒業して大学受験をしたけど、塾には行かず独学で合格できたよね。私自身、世の中で常識や普通とされることに乗っかって生きてこなかったので、自分にあったやり方をわかっているなら、それでいいと思ったんです。今、高校生の次男も塾には通っていません。毎朝5時に起きて、6時から8時まで学校の近くのマックで自習しているんです。ご飯はどうするか聞いたら、「ママが大変になるからお弁当はいらないし、朝ごはんも自分で食べる」と。
ー素晴らしい自主性ですが、どうしたらそんな風に育つのでしょうか?
坂さん 「勉強しなさい」とも言わないし、「お弁当作らなきゃ」「朝起こさなきゃ」といった縛りもこの家にはないんです。それがよかったのかな。私だけじゃなく、夫も子どもたちも両親も、みんながそれぞれの得意な分野で補いあっているのかもしれません。といっても、息子たちのほうが明らかに新しい情報に触れているし学習スピードも早いから、私たちが学ぶことのほうが多いですけどね。「置いていかれないようにしないと!」って、いつも夫婦で話しています。
ーリノベしてまもなく10年ですが、住まいに変化はありましたか?
坂さん 基本的にはあまり変わっていませんが、アトリエの用途が広がりました。当初は私のフルートを練習する部屋にしていましたが、今はサブリビングとして過ごすこともありますし、息子がオンラインでアルバイトをする時に使うこともあります。平日は夕方になると、私の両親が夕食を作りに来てくれるので、料理の合間に父がソファに掛けてくつろいでいることも多いです。
以前は家族の共有スペースだったスタディルームを次男の個室にしたので、代わりに、アトリエ奥のクローゼットの棚を取り払って夫のデスクを入れました。向かって左が夫のスペースで、右が私の楽器練習スペース。使わない時は扉を閉めておけばスッキリと見えます。
ースッキリといえば、キッチンもモノが全然出ていなくて整理整頓されていますよね。
坂さん まな板はここ。水切りカゴはここ。とそれぞれに撤収する場所が決まっているんです。スポンジだけが出ている状態になれば片付け終了!というのが我が家のルール。ゴールがあると家事の終わりがわかりやすくていいですよ。
ーたしかにわかりやすいですが、家族皆がそのルールを守ってくれますか?
坂さん 家族で複数のLINEグループがあって、何か新しいルールが決まったらそこにメッセージを送りあって、皆で守るようにしています。「鍋の置き場はここに変わりましたよ」「布巾の色はシステムが変わりましたよ」と写真を添えて送ります。もちろん全員がすぐにすべてを覚えられるわけではありませんが、「みんなが全然言うことを聞いてくれない!」「お母さん一人がひたすら頑張なくちゃ!」ということはないですね。最近新しく作ったLINEグループは「ヘルプ」。パソコンやスマホの使い方がわからない時にメッセージを入れると、「この日なら自分が対応できます」と息子たちから返信がきます。
ー家族というよりもなんだかチームのようですね。
坂さん はい、チームですね! ここは私の考案したストックコーナー。一つ一つの置き場所が決まっていて、たとえば「味ぽん」のストックが切れると「味ぽん」と書かれたラベルが出てきます。平日は私の両親が料理をしてくれるので、何があるのか一目瞭然にしておきたくて。今は「オイスターソース」と「白だし」のストックがない状態ですね。
ーラベルの状態を見て気づいた人が随時購入するのですか。
坂さん 息子がAmazonで注文しておいてくれることが多いです。で、後日LINEグループに請求書が送られてきます。
ー本当にチームとして機能していますね!ご両親とは食事も一緒にされているのですか?
坂さん はい、皆で食卓を囲んでいます。買い出しも含めて日々の料理は完全に両親にお任せ。夕方になると両親がカートいっぱいに家族6人分の食材を詰めてやってきて、ここのキッチンで作ってくれます。母は昔から料理コンテストに出ちゃうくらい料理好きだったんです。で、父は片付け好きの綺麗好き。でも典型的な九州男児で昔はお箸を落としても自分で拾わないようなタイプでした。それが、東京に出てきて約20年。今では母の助手となって二人三脚で夕食を作ってくれています。
ーご両親は定年後に長崎から上京されたと伺いました。住み慣れた土地を離れることに躊躇はありませんでしたか?
お母様 ちょうど主人が定年退職したタイミングだったのもあって、あまり躊躇はありませんでした。ただ、最初はちょっとだけのつもりだったの。それがいつのまにか19年経ちました(笑)。
坂さん お母さんはこっちに出てきてすぐ仕事もしていたよね。
お母様 上京したての頃、まだお友達もいなくてどうしようかなと思っていた時に、募集告知で見た近所の保育園で働きはじめて。今年の3月に78歳で退職するまで18年間仕事もしていました。
坂さん うちの息子たちもその保育園に通っていました。父は父で上京してすぐに「自由人クラブ」という第二の人生の生き方講座を立ち上げていましたね。自分たちも新参者なのに発起人となって(笑)。その組織も20年近く続いています。今、母は習いごともいっぱいしています。オカリナ、絵手紙、朗読、音楽療法もやっているよね?
ーさすが母娘!お母様もパワフルなのですね。
お母様 予定がありすぎるうえに、毎晩夕食を作らなくてはいけないのでスケジュール管理が大変です(笑)。でも、もし自分たちだけだったら簡単に済ませていたかもしれません。「みんなが夕食を待っている!」と思うから頑張れますし、それが元気の秘訣かなと。毎日楽しんでいますよ。
ご主人 すっかり慣れてしまっていますが、毎晩品数がすごいんですよ。だから息子たちも必ず家で食事をします。
坂さん 食べ損ねたくないから遅くなる時は「取っておいてください」と必ず連絡があります。でも、ただ一緒に食事をしているだけではなくて、子どもたちがおじいちゃんおばあちゃんと仲が良くて。父は今82歳ですが、息子からもらったApple Watchをつけて健康状態を日々管理してもらっています。そうやって新しい情報をインプットしてくれるので二人も若返るみたいです。「歩幅が狭くなっているよ」なんて時々アドバイスを受けているよね。あと、子供たちが世界情勢に詳しいので、夕食の時にニュースの話題になると、その国の成り立ちや領土の歴史を教えてくれることも多いです。
ご主人 池上彰さんの番組を見ていると、必ず池上さんと連動して息子が喋り出すので、池上さんが二人いる状態です(笑)。
坂さん そうすると私の両親は「それってどの辺?」「もう私たちはヨーロッパの国の位置は覚えられないわ」と言うので、「じゃあ地図があるといいね!」と段ボールに世界地図を貼って、ボードを自作しました。裏面はヨーロッパの拡大図になっています。で、今度は、食事中に指で場所を示そうとすると手が届かない。「じゃあ、指差し棒を買いましょう!」と。そんなふうに誰かが何かに困っていると、私はそれを解決したくなるタイプなんですが、たぶん家族皆がそうですね。コロナ禍でロックダウン中も家の中でチーム一丸となって楽しく過ごしていました。
こういう話を周りにすると「ご両親、元気だね!」と言われますが、私たち家族にとってはそれが普通。お義母さんも仕事で世界中を飛び回っていた方だったので、夫も「お母さんが家事をしなくちゃいけない」という家庭で育っていなくて。だからこそ、家族というよりもチームという意識が強いかもしれません。
ー家族皆に自立心があるのがすごいことですよね。
ご主人 長男と妻は性格が似ていて双子のような二人なので、長男が大きくなるにつれて、ますますうまく回るようになっている気がします。
坂さん 洗濯は中学の頃から長男が率先してやってくれていました。「洗濯の干し方でこういうことが困っています」とLINEがきたら「じゃあハンガーを増やしましょう」「乾燥機を買いましょう」と解決する。そんな感じで家の中が回っていますね。
ーお子さんを子ども扱いせず、チームの一員として捉えているのですね。
坂さん 早い時期から息子たちをいろいろな国にホームステイさせていたことも大きいかもしれません。韓国、台湾、ロシア、アメリカ、ベトナム、フランス。それぞれの家庭のルールに従わなきゃいけないので、その影響もあるのかなと思います。それに、私自身が常々「なんでお母さんが早起きしてお弁当を作らなきゃいけないのかな?お母さんばかりが大変なのは変じゃない?」と疑問に思っていたので、我が家にはお母さんだけががんばる文化はないですね。それよりも「みんなで楽しくやろう!」という感じです。
ー坂さんも留学経験はおありなのですか?
坂さん 小学生の頃に中国語と英語を習っていて、まだあまり中国を訪れる日本人が少なかった時代でしたが、中国にホームステイしたことがありました。両親がホームパーティ好きだったので、海外からお客さんを招くこともあり、九州の田舎で育ったわりには海外交流が盛んでした。今も我が家に留学生がホームステイに来ることもありますし、留学仲間が20人くらい集まってそれぞれの国のご当地の料理を作ってもらうこともあって、賑やかに過ごすことは多いです。
ーこれからやりたいことはありますか?
坂さん まだ見たことのないものを見てみたいです。だから海外旅行にも行きたいし、知らないことをしている人にもどんどん出会ってみたいですね。その姿に刺激を受けて、私も新しいことに挑戦したい。そうやって新しい情報をキャッチすると、また新しいアイデアが浮かんでくるんですよ。家族でオーストラリア旅行に行った時のコンドミニアムがきっかけでこの家をリノベしたように、新しいことに触れて、それを日々暮らしの中に還元していきたいと思います。
ご主人 最後に家族旅行に行ったのが2020年頭のクロアチア。そこからコロナ禍に突入してしまったからね。
お父様 そうだね、そろそろまた皆で旅行がしたいね。私は100歳まで生きる予定なので、まだまだ大丈夫ですよ。
坂さん 頼もしいわ!これからも家族皆でいろいろなところに行きたいし元気でいてね。
text_やまだとしこ
photo_totonoi編集部