ー墓じまいをしたと伺いました。大きなご決断だったのでは?
ご主人 そうですね。娘二人は嫁いで後継者がいないので、避けては通れないことでした。
奥様 義父が立ててくれたお墓で、私たちだけで決められることではないので、主人を含めた3兄弟で相談して一緒に決めました。
ご主人 私は次男で、三男は今も北海道にいますが、長男は相模原にいます。三男の息子も都内に住んでいるので、少しずつこちらに親戚が増えていて。それもあってか反対はありませんでした。むしろ、これまで私たちが本家を務めてきたからと、「墓じまいは3人で全部分担しよう」と言ってもらえたので助かりました。
奥様 ありがたかったよね。
ーちなみに、墓じまいとはどのようの進めるのですか?
奥様 まずは葬儀屋さんに相談しました。墓地を解体、撤去した後は永代供養にもできますが、私たちは納骨堂に収蔵することを選びました。北海道の自宅の近くにあるお寺の納骨堂に預かっていただいています。まだ私たちも元気なので、これからも定期的にお参りに行く予定です。
ご主人 葬儀屋さんが「今は、お墓を建てるのが1件だとしたら、墓じまいをするのが3件です」とおっしゃっていたので、こういうケースは増えているのでしょうね。
ーご自宅の売却はどうされたのですか?
ご主人 私たちが所属していた農事組合法人が買い取ってくれました。今後は会社で宿舎にする予定だと聞いています。
奥様 30年前に建てた家でしたが、数年前に外壁を張り替えて、お風呂も新しくして、大規模なリフォームをしたところだったのできれいな状態でした。
ご主人 たまたま隣家の仕事仲間のご家族が家を建てるのに仮住まいをしたいということで、私たちが退去した直後から住んでいますね。冷蔵庫、洗濯機、石油ストーブと家具はほとんど置いてきたので、便利だったと思います(笑)。
ー家電はこちらへ持ってこなかったのですか?
奥様 数年前に買った家電ばかりで古くはありませんでしたが、ここの広さに合ったモノを買い直しました。家具はほとんど処分しましたね。
ーお家がコンパクトになった分、家に合う家具家電も変化したのですね。
奥様 持ってきたのはテレビと車2台くらいかな。他はほぼ全部置いて出てきました。車も向こうでは1人1台が普通でしたが、こちらに越してから1台は娘家族に譲りました。
ー引っ越し後、新しく始めたことはありますか?
奥様 一番は「散歩」です。散歩とは言えないくらいの早歩きですが…(笑)。この辺は野生動物も多くて、この前、近所の池で亀を見つけました。「こんなところで見られるんだ!」と感動しましたね。マガモやカワセミ、アオサギも見かけました。マガモはテレビでしか見たことがなかったのでびっくりしました。
ー北海道とは見かける動物が違いますか?
奥様 違いますね。キツネ、タヌキ、ヘビなんかは見慣れていますが、マガモは初めて見ました。
ご主人 北海道ではたまに畑でフクロウを見かけることもありましたよ。
奥様 あと新しく始めたことは、「おいしいご飯」を作ることかな。ほぼ毎日、娘家族と朝晩一緒に食事をしているんです。家族みんなでいろいろな会話ができるのでいいですね。
ー10年前に移住を考え始めたとのこと。ここから10年後はどんなことを思い描いていますか?
奥様 家族の食事の支度を続けられるようにずっと元気でいたいですね。「食事の支度は5年で卒業させて」と娘に伝えたことがあって。そうしたら「5年なんてすぐだよ。せめて10年頑張って。大丈夫!」と言われたんです。10年後は80歳ですが、家族の力になれるなら、頑張って続けたいと思っています。
ご主人 長女が川崎に住んでいるので、車で行って家事や片付けを手伝うこともあります。自宅で家庭菜園やDIYも楽しみながら体を動かして元気でいたいですね。
奥様 娘たちから頼りにされることで「元気でいなきゃ!」と思えますから、そうやって頻繁に連絡をくれることも本当にありがたいと思っています。10年後に何をしたいかはその時になってみないとわかりませんが、何かしらの目標や張り合いがないと元気ではいられませんからね。
ご主人 「とにかく元気で!」ですね。
実は以前、娘さんご家族にもインタビューしたのですが、穏やかで頼りがいのあるご主人と、明るく元気な奥様というご夫婦の関係性はどこか通じる部分があり、家族とはお互いに深いところで影響を与え合っているのだなとしみじみと感じました。そしてご家族皆さんに共通しているのが前向きなところ! 不安に目を向けて歩みを止めるのではなく、年齢を重ねても日々楽しみながらチャレンジし続けることが、移住を成功させる鍵だと思いました。