光と影が同居していた「黄金の20年代」のアメリカに惹かれて

▶︎目黒通り沿いの油面交差点にある『POINT NO.39』。古き良きアメリカを感じさせるサインステッカー

「インテリアストリート」と呼ばれる目黒通り沿いにあるヴィンテージショップ『POINT NO.39』。同じく目黒通り沿いには2号店『POINT NO.38』、近所ではウエアハウスとして機能している『POINT NO.39 WAREHOUSE-ASTON GARRET ROOM-』も展開しています。

「取り扱っている家具の出自は、アメリカ、イギリス、フランス、オランダ、ベルギーと欧米各国に渡りますが、テーマにしているのは“1920年代頃のNYの路地裏にあるアンティークショップ”。当時のものや、その時代のデザインを引き継いでいるものを中心に扱っています」

▶︎『POINT NO.39』の店内。こちらの店舗では家具や雑貨を中心にラインナップしています

そう話すのはオーナーの杉村聡さん。目黒通りにあるアメリカンヴィンテージ家具を扱うショップに勤めたのち、2010年に1号店『POINT NO.39』を開店しました。

「勤めていたショップで働きながらヴィンテージ家具について勉強して、だんだんと自分の好みがわかっていって。栄華を極めていた20年代やその後の禁酒法時代のアメリカの雰囲気に惹かれるんです」

▶︎予約制で見学が可能なウェアハウス。レストア前のアイテムを手頃な価格で販売。レストアの希望にも対応

お店から徒歩10分弱のところにあるウェアハウスには店頭に並べる前の家具が大量に並んでおり、これらも購入することが可能。床から天井まで積まれた大量のアイテムは圧巻。宝探しのような楽しさがあります。

一方、2号店の『POINT NO.38』では照明器具を中心に取り扱っています。中でもオリジナル照明は人気で、ペンダントライトからシーリングライト、壁につけるブラケット照明まで、さまざまなタイプを製造しています。

▶︎こちらも目黒通り沿いにある『POINT NO.38』では、常時100点を超える照明器具を取り扱っています

「1910年頃の照明をもとにデザインして、当時使われていた部品を現在も製造しているアメリカのメーカーを探し出し、パーツの約9割はアメリカから仕入れたもので作っています。今日日はおそらく国外の工場で製造していると思うので、工場に直に掛け合って作ってもらうこともできるでしょうが、アメリカの空気をまとったものを使いたいので、本国のメーカーを通して仕入れています」

▶︎お客様に、製造しているシーンに触れてもらいたいという思いから、お店の一角をオリジナル照明の工房に

海外製の照明はコンセントの仕様や電圧について日本のものと違いがあり、気軽に取り入れやすいものではありません。そこで、杉村さんはオリジナル照明の製造をスタート。家の図面を持って照明器具選びの相談に来る家づくり中のお客様や、欧米のようにブラケット照明だけで家の照明を計画なされたお客様もいるのだそう。

▶︎人気は裸電球をつけるタイプ。どんな色、デザインの電球を合わせるかで使うシーンも雰囲気も変わります

オリジンにこだわるスタンスはヴィンテージ自転車にも。インテリアを生業にする以前は自動車部品の整備士をしていた杉村さんは、自転車の整備もお手の物。取り扱っている自転車は、1930年代のものから1970年代のものまで幅広く、すべてきちんと乗れるように整備されています。

▶︎本来のデザインを活かしながらきちんと実用できるようレストアされたヴィンテージ自転車たち

「古いから使いにくい、ただ古いから高い、というのは嫌なんです。これまで長く使い続けられてきたものたちですから、きちんと手直しすればこの先の時代まで使えるんです。昔のものは良い素材を使って作られているものが多いんですよね。製造工程にも人の手が入っていることが感じられるし、デザインもひとつひとつ丁寧になされている。もともと古いものなので、傷ひとつ増えたくらいは許容できるし、ヴィンテージ家具というものは、とてもサスティナブルな存在だと思います」

個性とストーリーを持つ家具が、空間を豊かにする

▶︎『POINT NO.39』があるビルの上階がオーナー・杉村さんのご自宅。奥様と愛犬2頭と暮らしています

ただ「飾って愛でる」のではなく、「使って愛する」道具としてヴィンテージアイテムを提案するのが、杉村さんのモットー。古いものをその良さを生かして使うという考え方は、店舗の上階にある、リノベーションされたご自宅にも反映されています。

「築50年くらいですかね。ビルオーナーからここが空室になっているから住まないかと打診されて、好きなように改装していいという条件で住み始めました。元々は和室だったのを床と天井を剥がして躯体現しにしてもらって、間仕切りも撤去して1LDKにいました。窓につけた柵や寝室に続くドアなどアール・デコ調のヴィンテージパーツはオーナーのセレクトです」

▶︎古いビルをリノベーションした空間にヴィンテージアイテムたちがよく馴染んでいます

「空間にものを置いていこうと思った時、“とりあえず”でものを置くのはやめています。“ここにこれを置きたい”と思えるものに出会うまで待つようにしています。リビングに置いているソファは、ここに住み始めてしばらくしてから出会いました。教会にありそうな重厚さと素朴さがあって、まさにこんなソファが欲しいなと思い描いていたものでした」

そう話すソファは、1960年代のアメリカのもので、元々は青地に花柄のメキシカンなファブリックだったそう。それをレザーのファブリックに変更。お店でもファブリックの取り替えに対応しており、ファブリックを交換するだけでガラリと雰囲気を変えることができると言います。

▶︎「ファブリックを変える」「塗装する」といったアレンジで自分好みのヴィンテージ家具にする楽しみも

「ダイニングテーブルはここに住み始める前から持っていたもので、これもアメリカのもの。1960年代のものですが、デザインがちょっと古いんです。ヨーロッパからアメリカに来た人たちが、ヨーロッパ家具のデザインを再現しようと、手斧やノミとかで手作りし始めたのがアメリカ家具のルーツ。アメリカンヴィンテージの、そうした民芸っぽところを魅力に感じるんです」

リビングテーブルはフランス製、ペンダントライトはアメリカのヴィンテージものと、『POINT NO.39』オリジナルのシーリングライト。TV台はオリジナルで造作、シェルフは杉村さんがDIYしたもので、杉村さんのご自宅にある家具は年代も出自もバラバラ。そこで気になったのが、「ヴィンテージ家具のコーディネートのコツ」。ヴィンテージ家具同士はもちろん、新品の家具やアイテムと合わせる時、どう選ぶと良いのでしょう?

▶︎装飾的な両開きドアとDIYしたシェルフ。そのほかの家具や雑貨が混じり合って独自の世界観ができています

「国や年代で揃えていくのもひとつの方法ですが、僕は色やディテールを合わせるようにしていますね。木部の色だったり、真鍮色の金具を使っているものだったり、デザインに木挽きが用いられているものだったり。新品のアイテムと合わせる時も同じです。そんな緩いルールでも、意外と合うものですよ」

また、家具よりも先に照明器具を「これ」と決めておくとコーディネートがしていきやすいとも杉村さん。照明のデザインをベースに、家具だけでなく建具など内装材にも色やディテールの共通性を持たせていくと、うまくまとまりやすいとアドバイスをくれました。

▶︎寝室のベッドは色あせていたものを、パーツをバラしてオイルを塗り直して味わい深い佇まいに再生

「空間というハコを装飾していくよりも、ハコはなるべくニュートラルにして、家具で空間をつくっていくという考え方をしています。この家も、家具を置く前は全然印象が違いました。ヴィンテージ家具はそれぞれにストーリーと個性があって、それも面白いところ。いろいろなものが混ざっている空間のほうが、賑やかで楽しくなる気がするんです」

移民がつくった国として、さまざまな国や人種の人たちで成り立っていったアメリカ。そんなストーリーを、杉村さんはアメリカンヴィンテージを通じて感じているのかもしれません。確かなこだわりを持ちながらも、ヴィンテージ家具を格式ばったものとしてではなく、使う人の価値観や考え方を広げ、人生を豊かにしてくれるものとして扱っていることが伝わってきます。

▶︎「それぞれの個性が凸凹していても、それも楽しい」とヴィンテージ家具による空間づくりを語る杉村さん

もともとインテリアは趣味として楽しんでいたという杉村さん。まったく異なる業界からインテリア業界に転身し、34歳で独立。それから10年が経った今、インテリアショップがひしめく目黒通りでお店を継続し続け、店舗も拡大してと、エネルギッシュに事業を展開しています。「大変なことがいっぱいありましたよ」と笑う杉村さんですが、そこに悲壮な雰囲気は一切なく、心底楽しんでヴィンテージ家具を生業にしていることが伝わってきます。

「以前の仕事にもやりがいは感じていましたが、辞める前はクレーム対応の部署にいて、あの頃に比べると、お客様の笑顔と隣り合わせで仕事ができる今はものすごく楽しくてうれしい。仕事というより、遊ばせてもらっている感覚かもしれません」

▶︎『POINT NO.39』の一角にある杉村さんの奥様が店主を務めるコーヒーショップ『SUNAO COFFEE』

ヴィンテージ家具に出会い、その魅力の深さを知り、それによって人生が豊かになることを身をもって体感している杉村さんが提案するヴィンテージ家具たち。自分も、これからの暮らしに寄り添ってくれる一品に出会いたい。そう思わせてくれる取材でした。

▶︎小さな雑貨から大きな家具、自転車、照明まで、ヴィンテージを暮らしに取り入れやすいさまざまな品揃え

text_佐藤可奈子
photo_totonoi編集部

『POINT NO.39』
東京都目黒区下目黒6-1-28
TEL&FAX / 03-3716-0640
営業時間 12:00 - 20:00
休業日  水曜・年末年始

『POINT NO.38』
東京都目黒区下目黒4-11-22
TEL& FAX / 03-6452-4620
営業時間 12:00 - 20:00
休業日 水曜・年末年始

『POINT NO.39 WAREHOUSEーASTON GARRET ROOMー』
東京都目黒区中町2-3-22
TEL&FAX / 03-5725-1456
営業時間  12:00 - 20:00
※アポイントメント制
休業日 水曜・不定休・年末年始
『POINT NO.39』WEBサイト