ーご結婚後のお二人の住まい遍歴を教えていただけますか?
五島さん 結婚したのは2004年、結婚生活は今年で17年目になります。結婚前から僕は代々木上原エリアに住んでいて、事務所も家もずっと代々木上原。最初は自宅を事務所にしていて、当時でもこの街にそんな物件あるの? と言われるようなボロボロのワンルームアパートに住んでました(笑)。結婚してからは同じエリアで3回引っ越しました。住んでいるうちに家に飽きてしまうんですが、今の部屋は気に入っています。都会の家は窓があってもマンションやビルしか見えなくて、結局カーテンを閉めっぱなしだったりするじゃないですか。それが嫌だったんです。今の部屋は窓の外の景色が開ていて気持ちがいいんです。
大沢さん 自営業の私たちにとっては、賃貸の方がメリットが多いということもあるんですが、そもそも「持ち家」というものへの欲求が二人ともないんです。何かをコレクションするとかいった物欲もなくて。ただ、最後に住む家は購入しようかと話しています。
ー物欲はないということですが、するとご旅行がお二人の唯一のご趣味と言えるでしょうか。
大沢さん 私は独身時代からよく旅行に行っていて、まとまったお休みがある時はすぐ海外へ行っていました。他の出版社の仕事でご当地本シリーズを長年担当していたこともあり、国内もいろんなところへ行きました。
五島さん 僕は本当に趣味がなくて、旅行好きというわけでもなかったんですが、僕の事務所で人を雇い始めた6年くらい前から一緒に行くようになりました。それまではお互い仕事が忙しくて、なかなかまとまった休みが取りにくかったんです。
大沢さん コロナ禍の今は頻度を減らしていますが、それ以前は月に1回は行っていました。だいたい3、4日間の小旅行ですね。とは言っても、大体飲んで食べるのが目的で、観光名所や注目スポットといったところにはほとんど行かないですね。歳をとったら腰が重くなるし、何より美味しいものを食べるなら元気なうちじゃないと! というのが、夫婦で旅に行き始めた動機です。
ーご夫婦で出版社を立ち上げ、『たび活×住み活』シリーズを始められたきっかけはなんだったのですか?
大沢さん 長年担当していたご当地本シリーズが終了したのがきっかけでした。執筆活動は旅行以外のジャンルでもしているんですが、フリーランスということもあり、出版社の担当者が変わったりといったきっかけで、この先の仕事の幅が狭まってしまう可能性があります。それで、今後の働き方や仕事の続け方を考えていた時に、「自分で本を出したらいい」と五島に勧められたんです。
ーご趣味でもある「旅」を題材にご自分の名刺代わりになる本を作るというのは、自営業ならではのアイデアですね。『たび活×住み活』シリーズは、「その街に住む」目線で地方を楽しむという提案がユニークです。
大沢さん 当時、興味を持つ人が増え始めていた「移住」に着目したんです。どんな切り口だったら地方移住への興味を刺激できるだろうと考えて、思いついたのが「観光以上移住未満」という旅の楽しみ方でした。
五島さん 僕は税理士という職業柄か、その土地の経済事情を分析する癖があって。物件価格だとか、飲食店の単価だとか、街にどんな企業や施設があるのかとか。そうして街を見ていると、「住みやすい街かどうか」が見えてくるんですよ。例えば、駅前にショッピングモールや病院、郵便局が集まっている街は、コンパクトシティで少子高齢化が進むこの時代には将来性があるな、というふうにわかってくるわけです。
大沢さん 私たち自身は東京から離れたくない気持ちがあるので、二拠点生活に興味がありますね。地方の拠点をひとつに決めるのもいいけれど、住むように過ごせるお気に入りの街が各地にあって、それぞれへコンスタントに通う生活もいいなと思っています。セカンドハウスを買うよりも、ホテルに泊まる生活の方が便利そうですし。
ー宿泊施設はどんどんバリエーション豊かになっていますし、長期滞在しやすい宿や、働きながら滞在しやすい宿も増えてきていますよね。
五島さん 僕らは高級ホテルに泊まりたいといった欲もないので、どこでも行けます(笑)。でも、新幹線ではなるべくグリーン席を取ります。それは贅沢気分を味わいたいわけではなくて、快適な時間を過ごしたいから。だからホテルも、快適性が得られるならどこだってOKなんです。
大沢さん 最近は「ワーケーション」(観光地やリゾート地で働きながら休暇をとる過ごし方)という働き方も認知されてきましたし、コロナの影響でテレワーク化も進んでいます。移住や二拠点生活はリアリティのある選択肢としてこれからもっと支持されていくのではないでしょうか。
ー『たび活×住み活』シリーズはこれまで、鹿児島、信州、神戸、そして昨年末に第4弾の福岡が発売されました。さまざまな地方を旅してきたお二人ですが、目下のお気に入りの地方はどこですか?
五島さん 「神戸」編にも書きましたが、「住んでもいいかも」と思ったのは兵庫県の明石です。西明石駅には東京まで行ける新幹線が通っているし、明石駅前にはショッピングモールと商店街、公共機関もまとまっています。大きな公園もあって、港の近くには朝から飲める魚の美味しい居酒屋もある。大沢は居酒屋が大好きなので飲ませておけばご機嫌だし、僕はうまい魚を食べてご機嫌になれる(笑)。win-winです。
ーお二人の場合はご本の制作も兼ねているので旅の頻度は高めになるものと思われますが、歳を重ねると「旅を気ままに楽しみたい」と思う一方、老後の生活資金との兼ね合いも気になってきます。
五島さん そうですね。僕は税理士として独立した時から、50歳でセミリタイヤしたいと思っていたんです。それで、結婚した時に、二人で生きていくのに老後いくら必要なのかを考えて、「50歳までに1億5000万貯めよう!」と目標を立てました。で、実際に達成しました。株式投資で増やした分もありますが、ほとんどは純粋に仕事を頑張って貯めたものです。そうして50歳を迎えたのですが、もともとが無趣味なので仕事を辞めてもやることがなさすぎて、結局仕事をし続けています(笑)。今は、そうしたビジョンに見合った運用ができる方法を探しています。
ーすごい!なぜその目標貯蓄額をその金額に設定したのですか?
五島さん 仮に、老後に暮らす家を5000万円で買ったとして、残り1億円を運用に回して利回りを3%と考えても、夫婦二人なら生活していけるかなと考えました。「一年にいくら貯蓄する!」といった細かい目標設定は、掲げると息苦しくなってしまうので設けませんでした。でも、大きな目標は持っていた方が先に進みやすい。家計簿はつけていないけれど、代わりに貯蓄の残高チェックと運用益のチェックは定期的にしています。人は貯蓄や節約のことを考える時、どうしても目標設定のほうにばかり目が向きがちです。でも本当に大切なのは「今とこれから先の自分の状況」をしっかり考えて金銭状況を把握することなんです。
ー五島さんはファイナンシャルプランナーの資格もお持ちです。「老後2000万円問題」が話題になったりもしましたが、「老後にいくら備えておくべき」という目安はあるのでしょうか。
五島さん 「いくらあれば足りる」というのは、正直わかりません。僕らも貯蓄はしているけれど、物価が変わる可能性もあるし、これで何不自由なく老後が送れるとは言い切れません。大沢の父は、晩年をケアホームで過ごしたんです。それが結構お金がかかるんですよね。僕らは子どもがいないので、自分たちで生活ができなくなったら施設に入る可能性が高い。そうすると二人分の費用がかかるし、施設の内容によって金額はピンキリ。いくら払えば完璧なケアホームに入れるのか? 条件を追求していったらキリがなくて、現実味がありません。つまり、「いくらあったら安心なのか」なんて、誰にもわからないんです。じゃあどうすれば不安を軽減できるかというと、働ける限り働くのが一番だと思います。貯蓄しておくことも大切だけれど、月に5万円でも10万円でもいいから、自分の力でお金を稼ぐ術を持ち続けること。働き続けることは、社会との接点を持ち続けることにもなります。
ーたしかに、高齢者の独居問題などをみても、歳をとっても家庭以外の人や場とつながりを持ち続けているということは、とても大事なことだと思います。
五島さん 多くの人が結婚して子どもがいた時代と変わって、今は僕らのように子どもがいない夫婦も、独身の人もたくさんいます。大沢の親しい友人にも独身の方がいて、もっと歳をとったら彼女も加えてみんなで一緒に住むのもいいかもね、なんて話もしています。
大沢さん 私の親がそうだったんですが、歳をとるほど、意固地になってしまったり、環境を変えることを嫌がるようになったりしがちというイメージがあります。そうなる前に、これから先を楽しく豊かに生きる術を考えて、手を打っておくことが大事だと思いますね。
text_佐藤可奈子
photo_totonoi編集部
『たび活×住み活』シリーズ(たび活・住み活研究家 大沢玲子)
刊行:ファーストステップ出版
『たび活×住み活 in 信州』
『たび活×住み活 in 鹿児島』
『たび活×住み活 in 神戸』
『たび活×住み活 in 福岡』