3つのパターンで大人の住み替えをシミュレート

多くの方にとって住まいの一次取得は、30代のころに結婚や出産などの家族の転機がきっかけだった、という場合が多いのではないでしょうか。この場合、住まいの取得資金は「住宅ローン」で賄うことがほとんどで、現金一括で購入する方はそう多くありません。

では、大人世代になってからの住み替えの場合はどうでしょう。勤務先の定年が間近もしくは退職していて安定収入がなく、住宅ローンは組めるの?など、大人世代ならではの制限もついてきます。しかし近年では、大人世代の住み替えに対応するべく専用ローンを用意している金融機関も出てきました。

今回は大人世代の住み替えの資金計画について、「住宅ローンで資金調達」「預貯金や退職金で一括購入」「現在の住まいを売却or賃貸収入で支払う」という、大きく分けて3つのパターンでシミュレーションしてみました。

1.住宅ローンで資金調達をする場合

まずは住宅ローンで資金調達をすることから考えてみます。一番気になることを先にお話しすると、住宅ローンは50歳を超えていても組むことは可能です。都市銀行だけで考えてもほぼ70歳までは組むことができ、完済時の年齢も80歳までが上限とされています。つまり、50歳の方の場合30年のローンが組めるということになります。

だだし、です。組むことはできますが、いくつか注意が必要になります。大きな注意点は以下の二つ。

『収入に合わせて返済比率が変わる』

住宅ローンの審査で大きく関わるのが、返済比率です。「年間返済額÷年収=返済比率(%)」なのですが、都市銀行の住宅ローンの場合、年収400万円以上であれば35〜40%程度とされています。つまり、年収700万円/返済比率35%の場合で、毎月の返済額は約20万円が上限ということになります。これが、年収200万円未満になった場合の返済比率は25%以内というところが多いので、年収190万円/返済比率25%の場合で、毎月の返済額は約4万円が上限ということになります。これは、20年でローンを組んだ場合、借入可能額が950万円まで、ということになるのです。この金額で、思い描いた住まいを手に入れることができるのか、それとも住宅ローンのほかに用意する現金の比率を上げる必要があるのかどうか等を、事前によく考えておく必要があります。

『団体信用生命保険に加入できないリスク』

高齢になると健康リスクが高まるため、団信(※)の年齢制限にかかってしまい、ローンが組めない場合があります。年齢の上限や健康状態の条件は金融機関によって異なりますが、ある都市銀行を例に挙げると、「過去3年間に対象の疾病にかかった場合は詳細な情報の提出が必要、且つ上限56歳」と定められています。団信への加入が住宅ローンの借入の条件になる場合が多いので、加入できなかった場合は、団信への加入義務がない「フラット35」などを視野に入れるといいでしょう。その場合は、返済途中でご本人が亡くなった場合でも、返済義務は残るというリスクがあります。過去に加入した生命保険の内容を確認していただき、生命保険で返済がカバーできる場合は、団信なしのローンも検討できそうです。

※団体信用生命保険(団信)
住宅ローンの返済中に万が一(対象になる疾病及び死亡)のことがあった場合、保険金により残りの住宅ローンが弁済される保障制度です。借入時に一括で支払うか、金利に上乗せして支払います。

2.預貯金や退職金で一括購入する場合

貯蓄や退職金など、ある程度まとまった資金があり、「現金一括で不動産購入をしたい」という方もいらっしゃるかと思います。潤沢に資金がある方は別ですが(むしろ税にまつわるお話をしたくなりますが、また別の機会に)、ほとんどの方はそうした資金の一部は、老後の生活資金に当てていくおつもりだと思います。

この場合でご注意いただきたいのは、これからの生活資金や医療費など、老後のために残しておく資金を十分に残しておく、ということです。

「老後の生活資金のメインは年金で」と思っている方も多いと思いますが、ご自分が年金をいくらもらえるのかを把握しておくことはとても大切です。年金の受給開始年齢や受給見込額はねんきん定期便やねんきんネットで知ることができます。

確認した上で、以下のような計算をしてみてください。

【60歳定年、65歳から年金受給、95歳まで生きることを想定】

現金+(年金受給年額×30年)ー(生活資金や医療費×35年)=住宅資金

以下のご夫婦を上記の計算に当てはめてみましょう。

Aさんご夫婦
・預貯金:2,000万円
・見込める退職金:2,000万円
・夫婦で見込める年金額:300万円/年
・生活資金や医療費年額:360万円/年

ある程度の預貯金も退職金もあるAさんご夫婦。「生活資金や医療費年額」の見込みは、心の豊かさを保ちながら夫婦が生活をしていける額として設定しました。

4000万円+(300万円×30年)ー(360万円×35年)=400万円

……400万円しか住宅資金に残すことができません。

4000万円の資金のうち、半分の2000万円を住宅資金に使うと想定すると、生活資金等は1600万円削減する必要が出てきます。年額に換算すると約46万円(月額約4万円)。この金額であれば、外食や旅行など「外で使うお金」を中心に見直すことで削減できそうです。ただし、これからの暮らしで重視したいことや、出費を見直せる項目は人それぞれですので、ご自身の暮らしに当てはめて考えてみてください。

3.現在の住まいを売却してそのお金で購入する場合

持ち家を売却した資金で住み替えする場合はどうでしょう。持ち家を売却して、購入する場合は、「売り先行」か「買い先行」か、で気にするポイントが異なります。

「売り先行」=売却をしてから、新居を探す場合

いつ、いくらの現金が入ってくるのかがはっきりしてから購入する住み替え先を探すことを「売り先行」と言います。新居購入のための資金が手元にない場合や、売却がはっきりしてから動きたい場合など、こちらを選びます。

注意点は、「売る物件の引き渡しと、買う新居の引き渡しのタイミングを合わせられるか?」という点。例えば2021年1月に物件の引き渡しが決まり、同年8月に新居の引き渡しが決まった場合(リノベーションをする場合は工事が完了して引越しができるタイミングのこと)、間の8ヶ月間は仮住まい生活をする必要があります。その間の賃料と、2度の引っ越し費用など、+αの費用が必要になってきます。

「買い先行」=新居を購入してから、売却をする場合

一方、新居を購入して住み替え先が決まってから、売却活動をする流れを「買い先行」と言います。手元に資金がある場合や、一定の収入があり、住宅ローンを新たに組む、あるいは組み替えできる余力がある場合の選択肢です。

この条件に当てはまる場合でも、現在の住まいが売りにくい条件(立地など)だった場合には、売却活動が長引くリスクがあり、「なかなか現金が入ってこない」ことも考えられるので、不動産仲介会社の方に相談して計画を立てていくことが大切になります。

ここで気になるのが、「住宅ローンの残債がある場合」。売却益で清算できる場合は問題がありませんが、できなかった場合は手持ちの資金から清算するか、新居で住み替えローンを組むなどの方法があります。審査条件は厳しくなりますが、できることはありますのでFPや金融機関などへご相談ください。

まとめ

大人世代の住み替えの資金計画では、今回挙げた3つのどの場合においても、住み替え先の購入方法や、持ち家の売却方法を考えるよりも、「まず老後の生活資金を考えること」が重要だということが、おわかりいただけたかと思います。数字に落とし込むことでリアルなお金のことが見えてきます。住宅ローンの返済シミュレーションなどはインターネット上で簡単に確認することができますが、これからの生活資金についてはご自身で調べて考えなければなりません。自分だけでは限界があると感じた方は、FPや税理士などプロの手を借りながら計画すると、不安な点をクリアーにしながら計画を進めやすいのではないでしょうか。注意点を心に留めていただきながら、ご自身が思い描くこれからの暮らしに必要な家と生活資金を決めていきましょう。totonoiでは、住み替え相談と合わせて、FPの紹介などにも対応していますので、ぜひお気軽にご相談ください。